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身欠き

皆さんは、ふぐの「身欠き」とは何か、ご存知でしょうか。
身欠きといえば、ニシンの干物を思い浮かべる方もおられるかもしれません。
しかしふぐの「身欠き」とは、ふぐをさばく一次加工のことを指します。
ふぐの有毒部位を除去し、安心安全な可食部だけを取り分ける大切な工程です。
ふぐ毒は人体に非常に危険を及ぼす恐れがあるため、専門の資格を持つ料理人によって丁寧な身欠き作業が行われます。
一般にふぐは、姿のまま消費者へ販売されることはなく、身欠きされた状態で食材として流通します。
ふぐ調理の基本である身欠きの工程を経て、私達はあの美味なるふぐを食すことができているのです。
ふぐ食文化をもつ日本の職人技、ふぐの身欠きとは?
その真相に迫ります。

職人の技、ふぐの身欠きとは

職人の技、ふぐの身欠きとは

美味なる白身魚として愛されているふぐは、類い希なる美味しさである反面、強力な毒をもつ魚としても有名です。
料理の下ごしらえで「魚を三枚におろす」と言いますが、ふぐはその前に有毒部位を取り除く工程が必須となります。
そのための解体加工を、ふぐの身欠きと呼んでいます。
身欠きとはどのようなものなのか、詳しく説明します。

ふぐの一次加工「身欠き」

ふぐは強力な毒をもつ魚なので、鮮魚として丸のまま消費者へ販売することが禁止されています。
専門の資格を取得したふぐ取扱者が、適切に有毒部位を除去し、身欠きの状態となったものが一般消費者へと流通しています。

ふぐの身欠き作業工程

ここでは、ふぐの王様トラフグの身欠き手順を簡単に記述します。
最も基本的で大切なポイントは、丁寧にふぐの身を水洗いしながら進めていくことです。

ふぐは種類によって有毒部位が異なりますが、その有毒部位と可食部位とを分別し、身欠きが終了となります。
通常、この作業は設備基準を満たした場所でしか行うことはできません。
また毒の部位は鍵のかかる専用の容器に保管し、除毒場で焼却処分等されています。

(1) 背びれ、胸びれ、臀びれを落とす
まず背びれ、胸びれを各2枚、臀びれを切り取ります。
皮に毒を持たない種類に限り、ひれは乾燥させてひれ酒の原料として有効に活用します。
(2) クチバシを落とす
次に、ふぐの口であるクチバシの部分を切り取ります。
この部位は、コラーゲンを含むぷりぷりした食感の皮と、口の周辺に付いた身が珍味として人気があります。
こちらも、皮に毒を持たない種類のふぐに限り利用され、主に鍋料理や唐揚げに使用されます。
(3) 皮をはぐ
ふぐの皮は3層構造になっており、ふぐを身欠きにする際は皮はぎの作業が一番難しいと言われています。
3層構造の皮の下、一番内側の薄皮は「身皮(みかわ)」と呼ばれ、薄い膜のようで身の方に残ります。
上層の真ん中にあたる白く透明な皮下組織は「とおとうみ」と呼ばれます。
コラーゲンを多く含むぷりぷりの皮の部分です。
「とおとうみ」の名の由来は、戦国時代徳川家康の本拠地であった三河の隣が遠江(とおとうみ)だから、もじって「三河=身皮」「遠江=とおとうみ」と呼ばれるようになったそうです。
そして外側のザラザラとした表皮は「鮫皮」と呼ばれ、小棘(しょうきょく)と呼ばれる細かな棘を除去して食べられます。
この一連の細かな分業を皮すきといい、難しい技術を要します。
3層それぞれの食感が異なり、わずか数ミリの厚さを剥ぎ分けるのですから、その技術は匠の技と言えます。
ふぐ皮は湯引きしたあと千切りにし、ふぐ刺しに添えられます。
豊富なゼラチン質をいかした煮こごりにも使用されます。
現在日本で皮を食べても良いのは、わずか11種類のふぐに限られています。
(4) カマ(脇骨)をはずす
カマに包丁を入れ、はずします。下あごの部分を引っ張って胴体からはがすように、本体からエラや内臓を引き離します。
眼球や生殖腺は食用できません。
丁寧に除きながら、カマ(脇骨)を切り取ります。
カマには身が多く付いており、アラとして美味しい部分なので、鍋や唐揚げにして食べられます。
(5) 頭骨と身の除毒
頭骨と身の部分を切り外し、腎臓や脳みそなど食べられない臓器を取り除きます。
エラや血合いなどを残さないよう、身をしっかり水洗いします。
頭骨は、鍋の具材や唐揚げに使用します。
(6) 臓器の摘出・鑑別
ここで徹底的に有毒部位臓器を除去します。
内臓などの有毒部位は、行政管理のもと各自治体の廃棄処理方法に準じて処理されます。
(7) 身と皮、骨身の処理
最後に、取り分けた可食部位を、調理しやすいように下ごしらえします。
さまざまな料理にあわせ、使用部分を切り分けて保管します。

職人の技がなさせる「身欠き」と「皮すき」

ふぐはやっかいな魚で、日本で食用とされているふぐ22種類の有毒部位はそれぞれ異なります。
その有毒部位を把握し正確に選別できるのは、有資格者の料理人だけです。
この特殊な加工技術は、一朝一夕で身に着くものではなく、専門性の極めて高い加工技術といえます。

また単純にふぐをさばいて、有毒部位を除去するだけではありません。
身欠きをしながら、肉質の良し悪しを判断できる眼力が求められます。
ふぐはデリケートな魚なので、肉質にバラつきがあり、価格帯も上と下で大きく開きがあります。
肉質をきちんと見極める能力は、そのまま店の信用度合に直結するので、とても重要な能力なのです。

また、皮に毒をもたない種類のふぐ皮は、栄養価も高く美味なため、珍重されています。
皮すきでは、いかに棘をきれいに除去し、皮の可食部を残すかがポイントとなってきます。

剥ぎ取る際の、皮に包丁を当てる角度や動かし方、仕上がりの美しさ等、腕前の差がでやすい部分です。
この技術も長年の経験があってようやく身に着くもので、皮すきがうまい料理人は業界で一目も二目も置かれるほど技量の求められる作業なのです。
身欠きされたふぐは、その後三枚におろしてようやく刺身や鍋物の具として調理されます。

ふぐが高級魚なわけ

高級魚といえば、ふぐは上位ランキングの定番魚です。
品のある美しい白身から想像以上の旨味を放つふぐは、大変人気のある魚です。

ではなぜふぐは高価なのでしょうか。
その答えは前述した、身欠きに隠されています。

ふぐは毒をもつため、さばくには専門の職人が必要です。
さらに有毒部位を除去する身欠きは何所ででも行えるえる訳でなく、除いた有毒部位をきちんと管理し焼却する処理施設がない所では許可されません。
このように身欠きの人件費と、それに伴う時間と設備も必要なため、ふぐはコストが多くかかる魚なのです。
また非可食部分を取り除くため、他の魚と比べて歩留まりが悪いのもふぐが高い理由の一つと言えるでしょう。

ふぐの身欠きは免許が必須

ふぐの身欠きは免許が必須

日本で唯一、身を捌くのに免許を要する魚があります。
それはふぐです。
ふぐ食文化の長い歴史の中で、強烈なふぐ中毒を避けるためにふぐ食が禁止されていた時代もありました。
しかし毒があってもなんとかそこを除いて食べられないか、先人たちは試行錯誤してふぐ食の歴史を切り開いてきたのです。

そして1949年、ふぐに関する研究が進み、東京では統一されたノウハウが定められます。
安心してふぐを食べられるように「ふぐ取扱業取締条例」が施行され、試験に合格した者に免許を交付するようになりました。
種類ごとに有毒部位をきちんと分析し、それらを学んでふぐ専門の資格をもった料理人のさばく日本のふぐ料理は、世界一安全と言っても過言ではありません。

一方、面白いことにふぐの免許取得は、都道府県毎に難易度の違いがあり、全国で統一された試験内容ではありません。
しかも、ふぐの漁場がない地域では、ふぐ条例のない都道府県も存在します。

鮮魚の取り扱いにおいて信頼できるお店を知っておくのは、消費者として大切かもしれません。
ふぐの免許について説明します。

なぜふぐは調理に免許が必要なのか

全世界で100種以上存在するふぐの内、食用として漁獲されているふぐは、ほんの22種だけです。
調理に免許が必要となった理由のひとつは、種類ごとに毒のある部位が異なるという点にあるでしょう。
しかも見た目が大変似ている種もあるので、その見極めは重要です。
ふぐの処理には専門の勉強を積んだ人でないと、安全なふぐは食べられません。

ふぐ中毒者の例で最も多いのは、釣り人と言われています。
毒への警戒心は内臓だけに気を払いがちですが、皮や身自体に毒をもつふぐもいるので、決して素人は調理してはいけません。
ふぐ毒に当たると呼吸困難になり、命を危険にさらすので扱いには慎重を要します。

一方ふぐは大変美味な魚なので、先人たちはどうにかしてふぐを安心して食せるようにと考察し、ふぐを詳しく知る努力をしてきました。
間違った知識や無知による事故をなくす努力は、食文化と人命の尊さを守る意識の向上によるものでしょう。

ふぐの調理をマニュアル化できたのは、まだ最近のことです。
そうしてようやく、ふぐは有毒部位を見極められる有資格者がさばく特殊な魚となり、その美味しさと安全性が守られるようになったのです。

呼び名や試験も様々、ふぐの免許

ふぐの免許は国家免許ではないため、試験内容も資格名も様々で、都道府県毎に違いがあります。
ふぐの本場山口県では「ふぐ処理師」、最大のふぐ消費地大阪では「ふぐ取扱登録者」、東京では「ふぐ調理師」、神奈川県では「ふぐ包丁師」と呼ばれています。

また免許の必要性に関しては、ふぐの取り扱いに関する条例が制定されている都道府県は47地方中24地方で、要綱のみ制定されているのは18地方となっています。
さらに実技試験を実施しているのは、わずか26地方のみと国内でも差があるのが現状です。

ふぐの免許制度を厳しく管理していない地域は、ふぐを食べる習慣のない東北地方に多いようですね。
全国共通のルールではないの?と、ふぐの流通に少し不安を覚えるかもしれません。
それだけに、信用できるお店を選ぶことは大切なポイントとなるでしょう。
東京都では、ふぐの免許取得が極めて厳格なため合格率は低くなっています。
東京都で取得したふぐ調理師免許は、埼玉県、神奈川県、滋賀県、鹿児島県の4県のみ資格の通用性を認めていて、最も厳しい取り決めがされています。

また逆に、その4県でふぐの免許を取得し要件を満たした者であれば、東京都の講習会を受けることにより、東京都の免許申請が可能となっています。
加えて東京都では「ふぐ調理師」の資格がなければ、身欠きされたふぐであってもふぐを販売・調理することもできませんでした。
しかし2012年10月に条例が改正され、身欠きに加工されたふぐであれば資格をもっていない人でも取り扱えるようになりました。

もちろん保健所への届出が必要など細かな決まりはありますが、以前と比べて飲食店でふぐ料理の扱いがしやすくなり、身欠きの需要は増え、ふぐ料理は今までより身近なものとになりました。
最近では、ふぐ免許の全国的な差異をなくし、統一したものにしようとする運動が起こっています。

板前も困惑する一貫性のないふぐ免許制度

身欠きの大切さ

身欠きの大切さ

猛毒を持つふぐを好んで食材にしている日本は、世界的に見ても特殊といえます。
「毒があるから食べるのは止めよう」と簡単に割り切れないくらい、魅惑的な味を持つ魚なのでしょう。
少し前まで私達の国は、ふぐという魚に関する情報が乏しく、誤った知識や巷の噂話だけでふぐを調理し、人命が失われるという悲しい歴史が長く続いていました。

しかし安心安全な食生活に対する意識が高まり、正しいふぐの知識を得ることで、ふぐの「身欠き」という加工技術が進展してきました。

名乗りを上げた都道府県が、独自の基準でふぐ食の安全性を守るために条例を設定し、資格を得る調理師が増えたのは素晴らしい事です。
それでもまだ、全国的に統一された国家免許ではありませんが、この制度が確立されていなければ、恐らくふぐによる中毒事故は多発し、ふぐ食の存続は危ぶまれていたかもしれません。

身欠きは丁寧に有毒部位を取り除き、安心してふぐ食を楽しめるための大切な作業なので、料理人たちは厳しい管理のもと、毎回気を緩めることなくその作業にあたっています。

身欠きされたふぐの身は誰でも購入でき、家庭でふぐをお好みの調理法で食べられるという点はとても魅力的です。
唐揚げや椀物など家庭で手軽に料理が作り出せると、ぐっとふぐが身近な存在になるでしょう。
これを機会に、安心して食べることができる身欠きのふぐを、日常の食事に取り入れてメニューの幅を広げてみてはいかがでしょうか。
高価な魚ではありますが、美味なるふぐの味わいが受け継がれたことに納得の、豊かな食卓となることでしょう。

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