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ショウサイフグ

「あら何ともなや きのふは過て ふくと汁」
かの有名な江戸時代前期の俳諧師、松尾芭蕉(1644年~1694年)が詠んだふぐが登場する有名な俳句です。
読み解くと「昨日ふぐ鍋を食べたが何ともない。ホッとしたが、昨日の思い詰めは何だったのか。バカバカしい。」というもので、一晩寝て目が覚めたことにホッとし、こんな命のカケをしてまでもふぐを食す自分をバカだなと笑ってしまう松尾芭蕉の胸の内が伝わります。
実はここで登場した「ふくと汁」は、高級魚トラフグではなく、江戸の下町で愛されていた「ショウサイフグ」なのではないかと言われています。
このショウサイフグは日本全国の沿岸に分布しており、関東を中心に海釣りが好きな人には馴染みのあるふぐとして有名です。
遠くの沖合に出なくても釣れるショウサイフグは初心者であっても釣りを楽しめるため、このショウサイフグを狙ったふぐ釣りツアーを催し、お客を呼ぶ釣船もあります。
しかしショウサイフグも天然ふぐですので、例外なく毒を持っています。主に皮や内臓に強い毒を有しているので注意が必要です。
ふぐは専門のふぐ免許を取得した人でないと、さばくことができません。
ですから釣船には必ずふぐ免許をもつ人が乗っており、釣り人は安心してふぐ釣りを楽しめるという趣向なのです。
昔から変わらず愛されているショウサイフグとは、どのような特徴をもつふぐなのでしょうか。
江戸の民が食していたふぐ、ショウサイフグについてその扉を開いてみましょう。

漁獲しやすいふぐ「ショウサイフグ」

漁獲しやすいふぐ「ショウサイフグ」

日本近海に分布しているショウサイフグは、昔から沿岸部を中心に漁獲しやすい魚として知られています。
安定して量を確保できることから、昔は干物などの加工品に用いられていました。
関東を中心とした海域でよく獲れる魚だったため、江戸で「ふぐ」と言えばこのショウサイフグのことを指していたと言われています。

昨今は、中国などから輸入したシロサバフグやクロサバフグを加工品に用いることが増えていますが、輸入ふぐが出回る前はショウサイフグこそ加工品向きのふぐとして活躍していたのです。
現在は加工用として市場に出回ることはほとんどなく、主に船釣りで釣ったショウサイフグを有資格者にさばいてもらい、個人で楽しむスタイルが一般的となっています。
ショウサイフグとは、どのような特徴をもつふぐなのかご説明しましょう。

ショウサイフグの特徴

ショウサイフグは、フグ科トラフグ属の仲間で全長35㎝前後の中型種のふぐです。
学名をTakifugu vermicularis (Temminck et Schlegel)、英名をVermiculated pufferと言います。

体上部の背面は茶褐色で、濃い褐色が不揃いな網目模様のように広がっています。
腹部は白く、背と腹部との境目に黄色線が走り、全身棘のない滑らかな皮をもっています。
ショウサイフグはマフグの幼魚と似ているため混同されやすい種類ですが、ショウサイフグの臀ビレは白く、マフグの臀ビレは黄色なので、この色が見分けるポイントとなっています。
また尾ビレの下縁に白っぽさがあり、ここも見分けるポイントとなっています。

知っておくと面白い「ふぐ」という魚の生態や特徴

ショウサイフグの毒性について

ふぐはテトロドトキシンを代表とする猛毒をもち、ショウサイフグも例外ではありません。
ショウサイフグの皮には毒があり、ヒレと共に食用できません。

筋肉と精巣(白子)だけは食用可とされていますが、筋肉は「弱毒」に分類されています。
実際は、漁獲される約9割近くのショウサイフグの筋肉は無毒なのですが、生息地域によっては弱毒の毒量をもつ個体が存在するため、完全な安全は保証されません。

ショウサイフグは、とくに卵巣と皮の毒量が多い種類です。
約50匹のショウサイフグを調べた結果、その約3分の2は卵巣に強毒及び猛毒をもつと分析されました。
滑らかな皮は、他のふぐと比べてもトップクラスの毒量を有し、3匹中1匹は強毒の毒量をもつとの結果が出ています。

釣り人に親しまれているショウサイフグ

関東近辺には、ショウサイフグ釣りを売りにした船が沢山出ています。
熟練の知識をもつ船頭さん達がヒットポイントまで船を出し、素人にもわかりやすく手ほどきしてくれるようです。
千葉県、神奈川県、茨城県などでは、独自のサービスを打ち出し、ショウサイフグ釣りを楽しめるよう企画してピーアールしています。

ショウサイフグは釣りやすい魚種ですが、餌だけを食べて逃げるのも得意なため、釣る手ごたえを楽しめると人気があります。
ごく希にトラフグを釣り上げるラッキー者もいるとか!
しかしトラフグは、天然ものの数が減少している上に、大型で鋭い歯をもっているため釣り糸を噛み切りやすく、手軽に釣れる魚ではないのです。

その点ショウサイフグは二匹同時に掛かるなど、釣りが面白いと感じさせる魅力的な魚なのだそうです。
ショウサイフグ釣り一番のポイントは、どの船も必ずふぐ処理免許をもった人が常駐しており、その道に精通した人がお勧めの食べ方をレクチャーしてくれます。

ショウサイフグはクセのない上質な白身が美味しいと評判で、旨味のある出汁が取れるので、鍋物の具材としても人気があります。
6月~7月頃は、産卵期を迎えたメスが釣れます。
お勧めなのは白子を使った料理で、軽く焼いた白子の香ばしさと中のクリーミーな味わいは格別です。

ショウサイフグの味わい方

ショウサイフグの味わい方

市場に出回ることがあまりないショウサイフグは、スーパーや魚屋に鮮魚として並ぶことはほぼないと言えます。
ショウサイフグを味わう一番の近道は、自分で釣るか、釣り好きの人にお裾分けしてもらうかのどちらかでしょう。

また可食部位とはいえ、弱毒に分類されている身を本当に食べてもよいのか、気になるところです。
さらに手に入れたショウサイフグはどうやって食べると美味しく味わえるのか、お勧めの調理方法が気になりませんか。
ショウサイフグは、あっさりとした淡白な白身と、身やアラから出る味わい深い出汁がとても美味しい魚です。
ショウサイフグの食べ方を詳しく掘り下げてみます。

出汁が最高!鍋物が人気

ショウサイフグは小型のふぐですが、トラフグ属に分類されているだけに、しっかりとした出汁が出るため、鍋物にすると染みわたる美味しさが味わえます。
ショウサイフグの身は、加熱しても身が締まり過ぎず硬くなりにくいことから、鍋物や汁物の具材に向いていると言われています。

釣り人のブログなどでは、ふぐちり鍋の他にも、ショウサイフグの潮汁や煮物などを筆頭に、独自のアレンジレシピが発信されています。
もちろんショウサイフグは、必ずふぐ免許をもった人が毒を除去し、さばかなくてはいけません。身欠きされたショウサイフグは、調理の幅がある楽しい食材となるのです。

ふぐの中では親しみやすい存在のショウサイフグですが、残念ながらスーパーなどの小売店に並ぶことがほとんどありません。
だからこそ、ショウサイフグは釣った人だけが味わえる「釣り人特権」の贅沢なふぐと言えるでしょう。

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身が弱毒!?食べても大丈夫なのか?

ショウサイフグの身は、正式に可食部位として認められていますが、「弱毒」と聞くと本当に食べても大丈夫なのか、心配になりますよね。

ふぐの毒量は、猛毒、強毒、弱毒、無毒の4つに分類されています。
この内、弱毒と無毒の部位は食用可と認められています。
弱毒「毒力10MU以上、100MU以下」の部位だと、100gから1㎏の摂取で致死量となります。無毒「毒力10MU以下」の部位は、1㎏以下の摂取なら致死量になりません。

ショウサイフグの身は弱毒の毒量をもっている個体がいるのも事実です。
しかし、海域や季節などで変動し、無毒な個体である確率の方が高いため、食用可と認められているのです。
また、一度に1㎏も食べることはないと想定し、そう言った意味で致死量になる確率はないとして食用が認められています。
逆に言えば、大量に食べると中毒を発症する危険があるということなので、一度に大量に食べるのはお勧めできません。

テトロドトキシンという不思議なふぐ毒、その謎に迫る

釣り人の特権「ショウサイフグ」

釣り人の特権「ショウサイフグ」

ショウサイフグを味わうには、船釣りなどレジャーとして楽しみながら自らの手で釣る方法があります。
獲物を釣り上げる興奮と自分で釣った魚を味わえる喜びはプライスレスでしょう。

釣り人の特権と言える身近なショウサイフグは、その筋の人たちには美味しく調理しやすいふぐとして人気があります。
お店では手に入りにくいショウサイフグを自ら釣り上げ家庭で楽しめる、という「特別感」が、ショウサイフグのもつ魅力の一つなのかもしれません。

ショウサイフグの身は加熱してもふっくらとしているのが特徴で、いろんな料理に応用のきく白身魚です。
トラフグ属に分類され、出汁がよく出てクセのない身をもつショウサイフグは、鍋や汁にすると他の食材との相性もバッチリなので、料理をする人から見ても魅力的なふぐと言えるでしょう。
唐揚げや天ぷらにすれば、立派な主役として食べ応えのある一品にもなります。
一部の身に弱毒を有するケースはありますが、大量に食べなければ問題はないとされているので、そこに配慮しつつさまざまな調理方法で楽しみたい魚です。

ショウサイフグの漁獲しやすさと美味しさは、既に江戸時代(1603年~1868年)の庶民に浸透していました。
歴史あるショウサイフグの料理は当時の江戸の台所を共感でき、ちょっとした時間旅行を味わえるかもしれません。
時代を越え日本人に愛されてきたふぐの魅力が、今もなお続いているのは感慨深いですね。

耳より情報として今は便利な時代になり、ネット通販でショウサイフグのむき身を販売しているサイトもあります。
松尾芭蕉のように「明日の命もありますように」と思い詰めながらもふぐを食べ、ふぐ食を伝承してきた古人を偲びながら、美味しいショウサイフグを召し上がってみてはいかがでしょうか。

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