ふぐの王様と称されるトラフグの魅力
この地球上には約20,000種類もの魚が存在し、そのうちふぐの仲間は約430種類ほどが確認されています。
日本近海には約70種類のふぐの仲間が生息していますが、厚生労働省が食用として認めているふぐはたったの22種類となっています。
その中で最も高値がつき「ふぐの王様」と称されるのは皆様よくご存知の「トラフグ」で、その極上の美味しさは天下一品と讃えられています。
トラフグは大型のふぐで、身もよし!皮もよし!白子も絶品!の美味しさに溢れた魚です。
正にふぐの花形とも呼べるトラフグは、淡白な身質でありながら、しっかりとした旨味と甘味を兼ね備えた美味しさをもっています。
ふぐは種類ごとに有毒部位が異なり、食せる部位に限りがありますが、トラフグは身、皮、ヒレ、白子など多くの部位を楽しむことができます。
そのため、トラフグのフルコースはふぐの贅沢な旨味を余すところなく味わえる花形料理として人気があります。
ふぐの美味しさを語る上で外すことのできない、トラフグについて特徴をまとめてみました。
トラフグの特徴
日本以外でもふぐを日常的に食べている国はあるのでしょうか?
実はお隣の韓国にもふぐの食文化はあります。
韓国では、甘辛く味付けしたふぐを焼くプルコギのような料理や、日本のちり鍋とよく似た鍋物などのふぐ料理が浸透しています。
また平成28年4月からは、中国でも養殖されたトラフグとメフグに限り、ふぐ食が解禁となりました。
日本が独自に切り拓いてきたふぐの食文化は、ふぐの美味しさと安全性を世界に認めさせるまでとなり、近隣諸国にじわじわと影響を与えているようです。
日本は長い年月をかけて、可食できるふぐを選り抜き、それぞれに異なる有毒部位を把握し、その美味なる味わいを活かした調理法を確立させてきました。
その筆頭に名を挙げるトラフグは、正に日本のふぐ料理を語る上で欠かすことのできない存在と言えます。
食用ふぐの中で、最も高級で最も美味とうたわれるトラフグとはどのような魚なのでしょうか。
ふぐの代表であるトラフグの特徴をまとめました。
トラフグの基礎知識
トラフグは、学名をTakifugu rubripes、英名をOcellate puffer(目のような模様のふぐ)もしくはTiger puffer(トラのようなフグ)、中国名を紅鰭東方魨(魨=フグ)といいます。
トラフグは北海道以南に生息しており、瀬戸内海、九州沿岸、朝鮮海峡、黄海、東シナ海に分布しています。
ふぐの中でも成長の早いトラフグは、体長は80㎝に達するものもあり、大型ふぐに分類されます。
お腹は白く、上半身となる背中はやや深い緑色を帯びた黒色で、まだらな黒斑が点々とあります。
胸ビレ後方に白い輪に囲まれた大きな黒紋があり、トラフグの大きな特徴となっています。
頭部から背ビレに沿って荒い小棘がびっしりと生え、腹部にもやや小さめの棘が密生しているので、ザラリとした手触りがします。
背ビレは黒色ですが臀ビレは白いのがトラフグの特徴です。よく似た種類のカラスフグの臀ビレは黒いため、この臀ビレの違いで見分けができます。
味の良いトラフグですが、言わずと知れた有毒魚なので、調理する際には細心の注意が必要です。
毒性は強毒種で、卵巣や肝臓はとくに強毒とされ、ほとんどの臓器は有毒のため食用は禁止されています。
トラフグの食用可能とされている部分は、筋肉、皮、ヒレ、精巣(白子)だけなので、可食部はとても珍重されています。
トラフグの身体的特徴として、外敵などから身を守るためにプクーと膨張した姿をご覧になったことはあるでしょうか。
トラフグは胃の一部が変化してできた「膨張のう」と呼ばれる袋をもっており、ここに体重の2倍~4倍もの水や空気を吸い込んで膨らむことができるそうです。
ふぐは膨張して棘を逆立てるだけでなく、空気を吐く時に「グゥーグゥー」と鳴き声をあげます。
また上下4枚の歯で歯ぎしりをし「キュッキュ」と鳴き、これらは仲間に危険を知らせる信号のような役割があるのではと考えられています。
また、トラフグをはじめとするふぐの仲間には、まぶたを閉じる種類が存在します。
通常、水中で生活する魚の目は乾くことはないので、まばたきの必要はありません。 しかし魚としては珍しい特性で、トラフグは目の周りの輪状筋を4~5秒かけてゆっくりと絞るように閉じるのです。
ふぐはなぜ目をつむるのか、理由はハッキリしていないようですが、目を保護するためにまばたきをするのではないかと言われています。
知っておくと面白い「ふぐ」という魚の生態や特徴
トラフグの美味しさ
トラフグは低脂肪、高たんぱく質で良質なコラーゲンを含んだ身をもつ白身魚です。
最も美味しいと評価される大きさは体長35㎝前後、2~3㎏のものです。
トラフグはふぐの中で大型に分類されるため、7~8㎏の大きさにまで成長しますが、大きすぎるものは味も大味になるため、大きいからといって評価される訳ではないようです。
ふぐの筋肉であるたんぱく質は、旨味の元であるアミノ酸の組合せで構成され、それらは昆布や鰹節と同じ成分なので、ふぐの味は日本人の口によく合います。
有毒部位の気になるトラフグですが、皮やヒレに毒はなく、身と一緒に皮、ヒレ、白子を味わうことができます。
もっちりとした歯ごたえが心地よく甘味と旨味の絶妙な美味しさを堪能できる「身」、コリコリとした食感とぷるんとしたゼラチン質にコラーゲンをたっぷり含んだ美肌食材「皮」はポピュラーな食材です。
他にも、熱燗と合わせることでトラフグの旨味を全て凝縮したような極上のスープを生みだす「ヒレ」、誰しもうっとりと魅了される濃厚でクリーミーな至福の逸品「白子」を楽しむことができます。
ふぐは魚ですが、肉のように熟成させて旨味を充分に引き出してから調理するのも、トラフグの美味しさの秘密と言えるでしょう。
部位ごとの主な料理
トラフグ料理の王道メニューを紹介します。
- 身
- ふぐ刺し、別名「てっさ」が有名です。
身は熟成させて旨味を引き出してから調理します。食感が命のふぐ刺しは、もちもちとした心地よい歯ごたえと、噛むごとに口の中へ広がる甘味が食べる人を幸せにします。
またトラフグの身やアラから出る出汁スープを楽しむふぐちり鍋、別名「てっちり」も格別です。
ふぐの身は加熱するとプリプリとした食感へ変化し、刺身とは違った味わいを楽しめるのもふぐちり鍋の醍醐味と言えます。
トラフグから取る出汁は旨味に溢れ、シメの雑炊を爆発的に美味しくします。
- 皮
- 湯引きした皮刺しや、皮のゼラチン質を利用した煮凝りが美味しいです。
ふぐは外敵に襲われるなど、危機を察知した際膨張する性質をもっています。
そのよく伸びる皮には、お肌の強い味方コラーゲンが豊富に含まれており、食感とお肌に嬉しい成分が魅力的な食材です。
コリコリとしていますが、温めるとゼラチン質がトロっとした食感に変わり、調理方法によって二つの食感が楽しめます。
- ヒレ
- 乾燥させて炙ったヒレを、アツアツに燗をした日本酒に入れて蒸らせば、身体に染みわたる最高の出汁を取ることができます。
琥珀色の出汁と日本酒がマリアージュした至福の一杯に変身します。
- 白子
- オスの成魚からしか取れない貴重な部位です。
濃厚でクリーミーな白子は、白子焼きなど素材をそのままに活かした料理がぴったりです。
トロリととろける柔らかな中身と、濃厚で甘味のある味わいに魅了された方も多いのではないでしょうか。
トラフグはなぜ高級魚なのか
トラフグは白身魚の頂点に立ち、締まった美しい身と上品な香りは高級魚として他の魚を寄せ付けません。
その身はあっさりとしていますが、噛めば噛むほど旨味が口いっぱいに広がり、至福の味わいを感じさせます。
トラフグは代替のきかない美味しい魚ゆえに市場の需要も高いのですが、高値の理由はそれだけではありません。
トラフグが高級魚となる理由をいくつか挙げてみましょう。
歩留まりが低い
トラフグは他の種類のふぐと比べて頭が大きく、毒のある部位を除去すると、食べられる部分より処分してしまう部分の方が多くなる魚です。
他の種類のふぐは、全体の4割程度を可食部位として取れますが、トラフグは3割程度しか食用に回せない大変歩留まりの低い魚なのです。
身に限っては、1㎏のトラフグのわずか2割弱にとどまるくらいに貴重なため、どうしても価格は上がってしまうのです。
歩留まりの低さは価格に反映され、トラフグは高級魚として高値で取引きされているのです。
希少価値
天然のトラフグは、未成魚を含む乱獲や産卵場の環境変化により数が激減しており、その希少価値性から驚くような高値で取引されています。
例えば2013年、築地市場でマグロが1㎏当たり9,000円弱で取引された日に、天然トラフグの大物は1㎏当たり16,000円もの高値で取引されていました。
養殖のトラフグはと言うと、数薄の天然トラフグを親魚として人工的に稚魚を生産するため、養殖稚魚の相場は上がります。
デリケートな性質のふぐを健康的に育てるためのランニングコストもかかり、決して安くはありません。
もちろん相場は日々変動しますが、2010年以降養殖トラフグは1㎏当たり2,300円前後で取引されています。
手間のかかる魚
トラフグに限らず食用ふぐ全般に言えますが、ふぐは毒の部位を除去する身欠きの加工にコストがかかります。
ふぐは毒があるため、ふぐの扱いには都道府県の条例に基づいたふぐ専門の資格保持者を必要とするからです。
ふぐをさばく際には、身に粘膜や血が残らないよう大量の水を使用しながら注意して処理していきます。
また除去した有毒部位は厳重に決められた方法で処分されるため、生ゴミとして普通には捨てられません。
毒の部位は容器に鍵をかけて保管し焼却するので、その専門業者との取引も必要となります。
また食用となる皮は、棘を除去し身からはがす「皮引き」と呼ばれる作業にも熟練の職人の腕が必要なため、ひと手間かかります。
最近では皮引き機が導入され、資格保持者でなくとも皮引き作業を担えるようになり以前よりは効率よく皮引きを行えていますが、ふぐは他の魚より工程が多く、人件費とさばく場所が限られるので、自ずと原価が上がるのです。
地方毎の様々な呼び名
毒をもつふぐは、武家をメインに食べる事を厳しく禁じられた時代がありました。
しかしふぐは、その美味しさに魅了された庶民を中心に、ひっそりと食べ続けられていました。
ふぐ食の歴史が途絶えることのなかったのは、不思議な魅力をもつ魚だからです。
ご禁制時代の長かったふぐは、いつしか日本各地で様々な隠語を付けられ、複数の呼び名をもつようになります。
それはご禁制であるゆえに、表だって「ふぐ」と呼びにくかった背景があります。
例えば大阪ではふぐを「てっぽう」と呼びます。
当たりどころが悪いと命を落とすという洒落からこのような異名は誕生しています。
そしてトラフグという魚種だけにも、様々な異名が存在します。
トラ、シロという業界でよく使われる俗称の他に、クマタカフグ(秋田県)、トミ(千葉県)、イカフグ(富山県)、テツ(兵庫県・香川県)、モンツキ・オオモン(岡山県)、モンブク(岡山県・愛媛県・大分県)、キタマクラ(高知県)、ホンフグ・フク(山口県)、ゲンカイフグ(福岡県)、クロモンフグ(大分県)、ブッキン(熊本県)など様々です。
異名はどれもトラフグの色や姿形、毒をもつため命に関わるような由来からつけられ、浸透していきました。
養殖ふぐと言えばトラフグ
昭和に入ると、都道府県ごとにふぐ毒による事故を未然に防ぐための条例も定められてきました。
ふぐを安全に食せるような体制が整うと、年々ふぐ食の需要は右肩上がりで伸びていきました。
しかし残念なことに、高値のつくトラフグは乱獲され続け、天然資源は枯渇寸前まで獲り尽くされてしまったのです。
その危機的状況を救ったのは、養殖のトラフグです。
養殖のふぐと言えば、それは全てトラフグ1種のみです。
年間通して安定した美味しいトラフグを提供できる養殖は、ふぐに携わるお店側から見ても養殖トラフグなくして需要に応えられないと言っても過言ではない存在となっています。
ふぐは一般的に冬の寒い季節を「旬」としていますが、養殖トラフグに関しては年中「旬」と呼んでも問題ない品質を保っています。
養殖トラフグのよさや、美味しい季節について追ってみました。
養殖トラフグの必要性
魚には「天然」と「養殖」が存在します。
自然な環境で本来あるべき生き方をして育った天然ものは、養殖に比べて人気もあり高く評価されがちです。
しかしふぐに関して言えば、必ずしも「天然ふぐ」の名称を上物だと断言できない事実があります。
それというのも天然ふぐとは、トラフグをはじめゴマフグ、クサフグなどふぐ種全般を対象としているからです。
ひとくくりにふぐと言っても、その種類によって味にはランクがあります。
ふぐのなかでは下魚として扱われる種類でも「天然ふぐ」のラベルが貼られますが、養殖トラフグの味わいには到底及ばない商品もあると言うことです。
ふぐをお店で買う時は、天然か養殖かより、種類に気をつけて選ぶのも大切です。
トラフグの中にもランクはあります。
プロは魚の見た目で、身質や味を察知できます。
そのため質の劣る天然トラフグより、安定した環境で育った養殖トラフグの方に高値がつくこともあります。
養殖トラフグは資源不足で悩んでいる天然トラフグの危機を救い、トラフグを年間安定して供給できるようにしてくれました。
多くのふぐ料理店や販売店の方たちが、これまでトラフグ料理をお客さんに提供し続けてこられたのは養殖トラフグのお陰とも考えられます。
ふぐ養殖までの試行錯誤と守るべきふぐ食文化
トラフグの旬
天然トラフグの旬は、12月~2月で「秋の彼岸から春の彼岸まで」と言われています。
とくに寒中(初寒から大寒までの間)の時期は栄養を蓄えた、最も美味しくなる季節とされています。
また美味とされる白子も、産卵期を控えて成長し、この時期ならではの珍味となります。
逆に天然トラフグの産卵期は3月~7月にかけて訪れるので、初夏のふぐは毒性が強くなり避けられる傾向にあります。
一方養殖トラフグは、年間通して水温を管理した環境で育つため、特に旬はなく一年を通して安定した美味しさを維持しています。
ふぐは冬の料理として定着していますが、通年美味しい養殖トラフグはどの季節にも十分楽しむことができます。
白身魚のあっさりとした美味しさを活かして、食欲の落ちる夏場はふぐの表面をサッと炙ってたたきにし、沢山のお野菜と一緒にポン酢でさっぱりといただくのもお勧めです。
ふぐの美味しさを語れる魚「トラフグ」
22種類の食用ふぐの中で、最も美味とうたわれているのはトラフグです。
しかし、トラフグが人々を魅了するのは、その味だけではないようです。
大きな紋を体に付けた気品と、体をパンパンに膨らます姿は堂々たるもので、インパクトが大きく惹き付けられます。
魚にしては珍しく、まばたきをしたり鳴き声を上げる様子も、興味を持たずにはいられません。
その身は高たんぱく質低脂肪と理想的で、あっさりとした味は調理の幅も広く優秀な食材です。
トラフグはその美味しさゆえに超人気食材であり、とても高値で取引されるため、漁業関係者から見ても魅力的な商品と言えます。
しかしふぐの毒は判別が複雑なため、誰もがさばいてよい魚ではありません。
免許をもったふぐ処理師が有毒部位を除去し、多くの手間をかけて身欠きされたものが市場に流れていきます。
これまでお話した通り、トラフグは希少価値がある上に歩留まりが悪く、他の魚以上に仕込みに手数をかけるので、高値となってしまいます。
逆に言えば、このような手間暇をかけ、高いお金を出してでも食べたい、代わりのきかない類まれなる美味しさをもっているのでしょう。
トラフグがもつ至福の旨味は、ため息と共に身に染み入ると言います。
高級ふぐ料理の代名詞的存在である「トラフグ」は、可食部位それぞれ異なった魅力があります。
旨味と甘味に富んだ弾力のある身、コリコリとした歯ごたえが心地よい皮、海の恵みが完成されたスープを作る旨味を秘めたヒレ、とろりと口の中にとろける濃厚でクリーミーな白子、どれも個性的でそれぞれ特徴のある美味しさをもっています。
そしてトラフグのフルコースは、主にこれらの部位がもつ美味しさを最大限に活かす料理で構成されています。
例えば皮のゼラチン質を利用した煮凝りから始まり、ふぐの身がもつ食感と甘味を刺身で堪能します。
油でカラッと揚げた唐揚げは、加熱してほくほくとした身質に変化したふぐの別の味わいを感じることができます。
極上の旨味が溶け出した琥珀色のヒレ酒で口を落ち着かせ、ぷちっと弾ける白子の薄皮の中から、とろける旨さが口いっぱいに広がりうっとりするでしょう。
身とアラから染みた出汁鍋でプリプリの白身と野菜のハーモニーをいただき、締めの雑炊を満喫すれば、トラフグの魅力に心奪われることでしょう。
ふぐの花形トラフグは、幸せな食事を忘れられない記憶として心に残し、ふたたび大切な人と共にふぐを味わいたいと思わせるのです。
ふぐ料理が魅せるシンプルかつ手厚い逸品の数々
[2017-9-12作成/2024-10-11更新]
(c)ふるさと産直村