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板前も困惑する一貫性のないふぐ免許制度

板前

日本は国土の四方を海に囲まれた、水産資源に恵まれた国です。
日本近海に生息している魚は、約4000種類と言われていますが、私達が食用としているのは約50種類ほどです。
その中で唯一、解体や販売は有資格者のみに許される魚があるのはご存知でしょうか。
それは「ふくらむ」、「毒」、「とげ」で連想される魚「ふぐ」です。
プクーとふくらむ可愛らしい見た目とは裏腹に、ふぐ毒テトロドトキシンは青酸カリの850倍とも言われる強い毒性をもつ魚です。
食用となっている22種のふぐは、種類や部位によって毒の有無が異なります。
そのことが解明されていなかった時代、残念なことにふぐがもつ毒に当たり命を落としてきた人も少なくありませんでした。
「命は主君のために落とすもの」と、豊臣秀吉は武家を中心に「河豚(ふぐ)食用禁止の令」を出したほど、ふぐ毒による死亡者は多かったようです。
昭和に入ると、ふぐの種類や部位ごとに有毒部位を細かく分析し、さばき方や有毒部位の処分方法などを制定した条例を設ける都道府県が出てきました。
こうしてふぐの調理に関する危機管理体制は確立されていくのですが、都道府県ごとに決められた資格制度には試験の有無や難易度に大きな差があり、全国で統一された国家資格にはなっていません。
ふぐの調理免許は、ふぐを提供する店が「資格をもった料理人が調理したふぐなので安心ですよ」と、お客様へ信頼を伝えるのに最も効果的なものです。
私たち消費者も、ふぐの資格制度について知っておく必要があります。
ふぐの調理免許を設けることにより、ふぐ毒による事故は激減し、日本のふぐ食は安全と胸をはれる食文化へ発展してきました。
日本独自の資格であるふぐの調理免許について、その歴史と都道府県ごとの違いを説明していきましょう。

ふぐ調理の免許、その歴史

身欠き終えた河豚

ふぐ処理の免許制度は、ふぐ食の安全性確保のため、毒による危害の発生を防ごうと各都道府県が考案しました。

全国でいち早くふぐ条例に乗り出したのは「食い倒れの街・大阪府」です。
この条例発行を筆頭に、他の都道府県でも次々とふぐ管理に必要な条例や要綱が制定され始めました。
もし、ふぐの取扱を規制する条例が成されていなければ、ふぐ毒処理に関する知識や衛生管理に対する危機感が足りないゆえの事故により、多くの人たちがふぐの毒に当たって命を落とし続けていたかもしれません。

ふぐ調理の免許が制定されていった歴史と、各都道府県が独自に設定した資格の違いを追ってみましょう。

ふぐに関する条例化、初の都道府県は「大阪府」

明治時代以降、ふぐ食禁止令が初めて解禁されたのはふぐの本場で有名な山口県です。

しかし山口県がふぐの規制条例を定めたのは、昭和56年(1981年)と少し遅い時期でした。
山口県下関市では古くからふぐの取引に力を入れ、ふぐの加工場や熟練の料理人が多く存在し、深刻な中毒者を出す中毒事故が少なかったため、条例化に取り組む必要性をあまり感じていなかったのではと推測されます。

一方でふぐ好きが集まる大阪府では、全国で最も早く昭和23年(1948年)に、ふぐに関する条例を設定しました。
その名も「ふぐ販売営業取締条例」といい、ふぐの販売営業を初めて許可制にしたものでした。

大阪府は、ふぐご禁制時代の間もふぐに「てっぽう」という隠語をつけ、庶民の間でずっと食べ続けていた土地です。
リスクのない食の提供を求め、ふぐ扱いの細かな条例を制定したのです。
今でも日本一のふぐ消費量を誇り、実に全消費量の約6割近くは大阪府で食べられているほど、ふぐ食のさかんな街です。

翌昭和24年、東京都でも「ふぐ取扱業等取締条例」が制定されます。
これは「ふぐ調理師試験(学科、魚種鑑別、臓器鑑別、調理技術の実技)による合格者の免許制」や「ふぐ取扱所の認証制」などを条例化したものです。

この流れを受けて、ふぐ食文化が深く根づいている地域から徐々に、大阪府や東京都の条例に類似した内容で制定が進められていきました。
厚生省(現在の厚生労働省)は、局長通知をもって条例や要綱制定の促進を全国へ通達し、ふぐ食の安全性強化に努めていったのです。

もっとも近年にふぐの資格制度の条例を出したのは平成25年(2013年)徳島県で、全国で25番目となっています。

全国統一ではないふぐの資格

ふぐに関する条例や要綱は、各都道府県内容や資格試験での実技の有無や、難易度に差があります。
統一した資格ではないため、取得した場所以外の他の都道府県で使えないこともあり少々ややこしさがあります。

平成25年以降、全47都道府県がふぐに関するガイドラインを制定し、条例25件、要綱21件、要領1件が施行されています。
条例とは、地方公共団体が議会の議決によって、事務内容を制定する「法規」です。
一方要綱は、行政機関内部における内規となるため、「法規としての性質をもたない」ものを指し、マニュアルのようなものです。
要領は、要綱より細かいものを指しています。

免許取得のため必要要件を掲げている都道府県は多く、ふぐの処理業務に2~3年の実務経験を必須としている所が多いようです。
大阪府のように講習の受講のみで資格を取れる団体もあれば、東京都のように学科試験と実技を必須とし、試験に合格した者だけに資格を渡す団体もあります。

このように、取り締まり力や資格取得条件にばらつきが見られ、現在これらを全国統一の資格にしようとの動きが出ています。

統一して欲しいふぐ免許の違い

板前のイラスト

ふぐ免許の少々ややこしいところは、都道府県で取り決めがまちまちであることです。
免許の正式名称も様々で、学科試験の内容も実技試験の有無もそれぞれなのです。
そのため、資格を取得した都道府県以外ではふぐの仕事に就けない場合もあるので注意が必要です。

免許取得に際して、都道府県ごとにどのような違いがあるのか、免許取得のいろはをまとめました。

様々な呼び方「ふぐ免許」

資格取得までの道のりも様々なふぐの免許ですが、呼び方もこれまた多種多様です。
ふぐ処理責任者、ふぐ取扱責任者、丸ふぐ取扱者、身欠きふぐ取扱者、ふぐ処理師、ふぐ調理師、ふぐ包丁師、ふぐ取扱衛生責任者、ふぐ取扱登録者など統一されていません。

安心を求める免許制度なのに、名称ひとつとってもバラつきがあると、国内どこでも安定したふぐを提供されているのかと、消費者は不安に感じてしまいます。
試験や講習の内容も含めて、全国統一の動きが出るのは必然ではないでしょうか。

学科試験の内容

ふぐの免許は都道府県別に取得方法が異なり、学科試験のある都道府県は22団体と全体の半分以下です。
学科試験の内容も統一されていませんが、主に出題される項目は以下の通りです。

関係法規

各都道府県のふぐに関する条例(ふぐの取扱いについて定めた条例)の法規上の知識や、要綱や要領の内容に関する問題が出題されます。
例えば「ふぐの処理」の定義や「ふぐ調理師の免許」の定義など、用語の定義についての設問などです。
また「ふぐ取扱所の認証」や「認証書」に関すること、「営業者の義務」や「届出」、違反した場合の「罰則」など、実際の運用に関する規則からの出題もあります。

ふぐに関する専門知識

ふぐに関する詳しい専門的な知識を必要とする問題で、とても高度な内容となっています。
その中で最も重要視され、難しい問題がふぐの毒に関する出題です。
ふぐ毒の特徴や性質を熟知しておくことが、ふぐ中毒防止に最も役立つからでしょう。

種類、個体、季節、臓器および地域差などで毒性が異なることを理解した上で、魚種別の特徴や毒性、臓器や皮などの部位別の毒性、毒力(毒性の強さ)と毒量の関係、フグ毒本体の特徴や性質、フグ中毒とその症状や応急処置などについて把握しておく必要があります。
疎かにしてはいけない点は、食用可能なふぐと類似している食用外のふぐのわずかな違いを熟知しておくことです。

また日ごろ調理する頻度が少ない種類も全て把握することが、ふぐ中毒防止につながるということで幅広い内容で出題がされています。

食品衛生・公衆衛生の知識

東京都や埼玉県など一部の都道府県では、ふぐ調理師試験の受験資格に「調理師法による調理師免許を取得している者」という規定があります。
すなわち、最初から食の基本知識をもち、志と責任をもつ人が対象となっています。

しかし、食品衛生と公衆衛生は非常に重要な知識となるため、調理師免許を受験要件としていない都道府県では、これらについても出題範囲となっています。

「試験」と「講習」、技能の差

ふぐ免許の全国統一化という声が上がっている理由の一つに、実技試験がなくとも取得できる団体があるからかもしれません。

「試験」として実技がおこなわれている都道府県は、28団体のみです。
実技試験の内容には、ふぐの種類と臓器の鑑別、有毒部位の除去、ふぐの調理などの実習が設けられています。
ふぐ料理の王道である、ふぐ刺しの包丁さばきを見る団体もあります。

資格取得手法が「講習」のみであれば、既定の内容を受講すれば、参加した人全てに免許が交付されます。

大きな違いは、試験には「合否」がある点です。
受験者全てが免許を取得できる訳ではないという緊張感があり、合格を目指して腕を磨いて挑むので、必然的にレベルの高い技術をもった人材が集まってきます。
試験制度を取り入れている都道府県の方が難易度は高く、合格者のレベルも高くなっています。

ふぐ免許の設定は、毒の処理を正しく行うためにあるのです。実技を試さずに資格が取れるのであれば、受講者自身にも不安はないのでしょうか。

講習のみと掲げている都道府県でも、実習という形でふぐの処理についての実技指導が行われています。
試験という形ではないにしろ、きちんとふぐの有毒部位を除去し、可食部位を見極める経験をさせることで、専門技術を獲得できるようです。

実技試験の概要

実技試験の内容も、各都道府県によってバラつきがあります。
難易度が極めて高いと言われている東京都では、除毒処理、臓器鑑別、調理仕上げまでをトータルで20分以内に仕上げなければなりません。

この制限時間20分とはかなりのハードルで、スムースに実技が行えるよう練習の積み重ねが必要だと言われています。
実施されている実技試験の概要を、詳しく見てみましょう。

種類鑑別
大型の容器に、大きさも鮮度もまちまちなふぐが数種類並べられています。
制限時間内(平均5分前後)に、ふぐの体表や色調、斑紋、模様、棘の有無、ヒレの色などを識別し、用意された名札を1匹ずつに振り分けていきます。
除毒処理と臓器鑑別
一般的に700g~1㎏程度のトラフグを使用して、除毒処理を行う都道府県が多いようです。
試験会場では、まな板の上にふぐが置かれ、「食べられるもの」「食べられないもの」に分けるバットが各1枚ずつ用意されています。
他に臓器鑑別用の名札、水洗い用のボウルなどが準備されており、これらを使用して制限時間(15分~30分前後)内に丸ふぐをさばいていきます。
さばきながら、摘出した臓器を鑑別し、「食べられるもの」と「食べられないもの」用のバットへ振り分け、それぞれに臓器鑑別用の名札を付けます。
調理仕上げ
三枚におろした上身をさく取りして片身を刺身に引き、準備されている皿に盛りつけていきます。
クチバシ、頭骨、カマ(脇骨)、中骨などはふぐちり鍋の材料として、粘膜除去や血抜きなど適切な処理が求められます。
皮は内側の皮下組織(とおとうみ)の粘膜除去などの後、真皮からとおとうみをはがし、真皮に付いている棘の除去である「皮引き」を行います。
手際よく正確にふぐ処理ができてこそ、試験に合格できるのです。

ふぐを安心して食べられる国を目指して

中毒客と慌てる店員

ふぐの魅力に取り付かれた日本人は、命を脅かす毒に向き合い、種類ごとの有毒部位を把握することにより、ふぐの美味しさを安心して味わうことのできる体制を整えてきました。
外国の方から見ると「そこまでして毒のある魚を食べようとする日本人がわからない」と、理解し難いようです。

美味しさ溢れるふぐ食のリスクを減らし、未来に伝えていきたいと考え、各都道府県はふぐの取り扱いに資格制度を設け、ふぐ食の安全性を確立させたのです。

ふぐ免許は、料理人の自信と誇りを具現化したものなのではないでしょうか。
ふぐの料理人は、食べるお客様の命を預かり細心の注意を払ってふぐ料理を提供しています。
「万が一」のミスも許されない緊張感をもって、ふぐ免許をもつ料理人として美味しい料理に日々腕を振るっているのだと感じます。

資格制度の全国統一化は、ふぐ消費量の少ない都道府県に対して、ふぐの美味しさを認知してもらう機会を増やす、効果的な方法にもなります。
試験の内容が統一されれば、免許者の技術に差は生まれにくく、全国どこでもふぐの料理人として働くことができるでしょう。

私たちはふぐの美味しさを求め、ふぐを食べることをやめません。しかし、毒に関して無関心でもいられません。
食事は楽しく、心が解放されるような暖かさに包まれ頂くものです。ふぐ料理に舌鼓を打てるのは、その信頼の場をふぐ免許保有者によって準備されているからです。

そして日本に愛されたふぐ料理は、ふぐ料理人がまごころ込めて提供していると、世界中に胸を張って紹介したいです。

ふぐの身欠きに見る職人の技術と信頼

2017-9-19作成/2018-10-9更新]

下関ふぐ本舗

~ 関連リンク<links> ~