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ハリセンボン

ハリセンボンという魚は、その名の通り体中に長く固い棘を生やしています。
実際に棘は千本あるのかと言うとそうではなく、約350本前後と言われています。
しかし体長30㎝ほどの体に350本もの棘を立てれば、その迫力は敵を寄せ付けません。
通常ハリセンボンの棘は寝ていますが、外敵などに襲われて危険を感じると、口から水や空気を吸い込んで風船のようにふくらみ、全身の棘を放射線状に逆立てます。
ふくらむ魚で有名なのは、ふぐですね。ふぐはふくらんで体を大きく見せる事や、その身に毒を有することで外敵から身を守っています。
ハリセンボンはふぐの兄弟とも呼べる同じフグ目に属する魚です。
ハリセンボンは基本的に無毒のため、代わりに体中にある長い棘を立てて敵を威嚇し、身を守っているのです。
イガイガとした姿のハリセンボンですが、驚くことにその身は食べることができます。
もちろん棘だらけの皮をはいで、身や肝を食します。
棘を抜き取った皮も食べられますが、はいだ皮を加工し、ハリセンボン提灯として利用している地域もあります。
沖縄県では「アバサー」と呼ばれるハリセンボンを使った美味しい郷土料理が食べられています。いったいどのような魚か興味がある人も多いでしょう。
しかし人は、なぜ棘に覆われたハリセンボンを食べることにチャレンジしたのでしょうか。
ハリセンボンはどんな味?
愛嬌のある見た目と、トゲトゲの体をもつハリセンボンについて、気になる疑問を一緒に解決していきましょう。

愛らしい「ハリセンボン」の生態

愛らしい「ハリセンボン」の生態

鋭い棘に守られているハリセンボンは、これぞという天敵はいない防衛力に優れた魚です。
ハリセンボンは常に棘を立てて泳いでいるのではなく、危機を感じると瞬く間にふくらみ、棘を逆立て丸くなります。
その独特な外貌は観賞用としても人気があり、小さなハリセンボンはペットとして家庭で飼育する人も多いようです。

ハリセンボンという魚の特徴を見ると共に、トゲトゲのボールみたいにふくらむその習性を詳しく説明しましょう。
これであなたもハリセンボン通!になれる、豆知識をお教えします。

ハリセンボンの特徴

ハリセンボンは、フグ目フグ亜目ハリセンボン科ハリセンボン属に分類され、ふぐの兄弟とも呼べる魚です。
ハリセンボンの学名はDiodon holocanthus Linnaeus、英名はBalloon porcupinefish(気球のようでヤマアラシのような魚)、Balloonfish(風船のような魚)、Spiny puffer(棘のあるふぐ)となっています。
寒さに弱い魚のため、日本近海では本州の中部以南の太平洋に生息しており、世界中の暖海域、熱帯海域に分布しています。

ハリセンボンの体は腹部が白く、背中は褐色で頭部及び胸ビレ後方、背ビレ基部に暗褐色の紋があります。
ふぐと同じく、腹ビレはありません。
背ビレには、小さな黒斑がいくつかあり、体全体に可動性の鋭く長い棘が密生しています。
この棘はウロコが進化したもので、皮に埋没していて引っ張っても抜けません。

外敵に襲われると、体が2倍になるほどの水や空気を吸い込み、分厚い皮を張らせることで棘が立ち自己防衛できる構造になっています。
棘が危険なのは一目瞭然ですが、ハリセンボンは上顎と下顎に1枚ずつの強靱な歯を持っています。それはまるで爪切りのようで、扱いには注意が必要です。

ハリセンボンはその丈夫な歯を使い、貝類やウニなどを捕食する肉食系の魚です。
体長は30㎝以下の小型種で、日本近海で獲れるハリセンボンは、身、皮、精巣(白子)が無毒として食用が認められています。
沖縄ではヒトヅラハリセンボンやハリセンボンを漁獲後、皮をはいで処理された丸裸の「アバサー」が市場に並びます。

たまに本州沿岸でも10㎝以下の小さなハリセンボンが定置網にかかることもあります。
しかし本州では市場価値がない魚のため、廃棄されることが多く、もちろんふぐ料理の食材としても使用はしていません。

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棘だらけのハリセンボンに天敵はいるのか?

危険を感じると棘を立て、敵の接触を拒むように自衛するハリセンボンですが、天敵はいるのでしょうか?
ずばり大きく成長したハリセンボンには、これといった天敵はいないと言われています。

ハリセンボンがふくらむ速さは約1秒と、驚きの速度で球状になるため、他の魚はおいそれと襲いかかることができません。
通常の体より、約2倍もの大きさにふくらむ秘密は、胃に隠されています。
胃には一方向にだけ動く逆止弁がついており、そこへ大量の空気や海水を吸い込み膨張するという仕組みです。

小さいながら自衛能力の優れた魚ですが、マグロやサメなど、大型魚の胃袋からハリセンボンが出てくることもまれにあるようです。
万が一、棘だらけのハリセンボンを襲うと、飲み込んでしまった魚の方がダメージを受け死に至ると言われています。
では天敵と呼べる魚がいないのなら、ハリセンボンはやたらと増殖するのではと、疑問に思った人もいるのではないでしょうか。

実はハリセンボンには、泳ぎが下手という弱点があります。
ハリセンボンの体の仕組みは早く泳ぐのに適しておらず、身体をくねらせて泳ぐ魚とは違います。
羽のようなヒレを波打つようになびかせ、ヒラヒラと一生懸命に泳ぐのです。
しかも、一度膨らむとすぐには元のサイズに戻れず、丸々とした体で自由がきかずにパタパタとしている姿は、何とも言えない愛おしさがあります。

しかし泳ぎが苦手なのは致命的で、潮の流れに逆らえずに暖かな海域から寒い海域へ流され、寒さに耐えきれず死んでしまう様子はニュースでよく取り上げられます。
また波の荒れた後の海岸に、悲しくも打ち上げられた姿は珍しくないようです。

毒はあるの?ハリセンボン

ふぐという魚は、生まれた時から毒をその身に備えているのではなく、餌などを介して摂取した毒が体へ蓄積され、後天的に毒化することが分かっています。
ふぐやハリセンボンは、棲んでいる海域に毒素を含む餌があるかないかで毒化の強弱が変わってきます。
厚生労働省では、ハリセンボンはふぐの仲間として括っており、原則これらの仲間全ての肝臓、卵巣、腸の食用は不可となっています。

しかし沖縄では、皮をはいだハリセンボンをブツ切りにして、肝も身と一緒に煮込む「アバサー汁」が郷土料理として古くから愛されています。
沖縄近海で漁獲されたハリセンボンの肝臓は無毒であることが証明されているため、沖縄料理として肝臓を使用した料理が飲食店や家庭で食されています。
現在、沖縄近海で獲れるハリセンボンは無毒として食用が認められていますが、台湾近海で身や精巣(白子)に毒をもつ個体が見つかっており、海外で漁獲されたハリセンボンには注意が必要です。

美味しいだけじゃない!ハリセンボン

美味しいだけじゃない!ハリセンボン

日本で認められている可食種のふぐは22種類あり、その中にハリセンボンも含まれています。
ふぐは種類毎に毒を有する部位が異なるやっかいな魚のため、食用としてさばくには専門の資格を必要とします。
しかしハリセンボンには毒がなく、誰でもさばくことができます。

沖縄では馴染みのある魚のハリセンボンですが、方言(ウチナーグチ)で「アバサー」と呼ばれています。
「アバサー」とはどのような意味があるのでしょうか。

それはハリセンボンが水から上げられた時、威嚇するように口をパクパクさせて鳴く様子からきているようです。歯を擦り合わせて音を出す様がまるでおしゃべりをしているように見えるのだとか。
そのような愛嬌のある姿から、沖縄では「おしゃべりな女」という意味の方言で「アバサー」と呼ばれています。
琉球の味ハリセンボンの名物料理を詳しく説明すると共に、日本各地のハリセンボンとの関わりも見てみましょう。

名物アバサー汁

沖縄では健康的な食材として用いられているアバサー(ハリセンボン)は、定番のアバサー汁の他、唐揚げや鍋物の具材として調理されることが多いようです。
体長は30㎝前後ありますが頭が大きいため、身付きは少なく刺身で食べられることはあまりないようです。

身はあっさりとしたクセのない白身で、弾力のある食感を楽しめますが、何と言ってもアバサーの美味しさはアラから出る旨味溢れる出汁と、濃厚な風味の肝にあります。
この美味しさを1匹丸ごと詰め込んだ料理が、アバサー汁です。

沖縄では中国の医食同源の考え方を取り入れており、アバサー汁を「下げ薬(さげぐすい)」と呼んで、健康によい料理として食しています。
アバサーはのぼせを取る効果や産後の栄養補給、母乳の出がよくなる等の効果があると言われ、とても重宝されている食材です。

アバサー汁の作り方

皮をはいだアバサーは身を軽く水洗いして臭みを取り、骨付きのまま好みの大きさにブツ切りにします。
鍋にアバサーを入れ、水から火にかけてしっかりと旨味を引き出しながら出汁をとり、時々アクをすくいながら15分ほど煮込みます。
肝臓はすり潰して味噌と一緒に混ぜておきます。

身に火が通ったら、肝臓と味噌を汁に溶いて味を調整します。
具には島豆腐を加えます。最後の仕上げに、地元の素材フーチバー(よもぎ)や刻んだネギを入れれば完成です。

もちろん家庭によって作り方、具材、味わいは千差万別ですが、限られた自然の恵みを大切にした沖縄の思想が感じられる、素朴で贅沢な郷土料理です。
肝のコクは最高ですが、臭み消しに生姜や泡盛を入れるのもオススメの食べ方です。

魔を跳ね返すハリセンボン提灯

日本に伝存する最古の歴史書「日本書紀」(720年)には、孝明天皇の項に「出雲国の北海浜に針のようなウロコをもつ魚の死体が打ち上げられた。」という記載があります。
これは昔神話の国「出雲」と呼ばれていた島根県で発見されたハリセンボンのことで、この記述が日本最古のふぐの記録と言われています。

日本海沿岸では、打ち上げられたハリセンボンを提灯に加工して戸口に吊るし、魔除けとして飾る風習があるそうです。
この風習は、他にも伊勢、鳥羽、三河地方で見られ、ハリセンボンは門口の御守りとなる縁起物として扱われています。
ハリセンボンが門守となる理由は、やはりその防衛力が挙げられるでしょう。天下無敵と言わせるその姿は、世にも奇妙で頼もしく、魔を跳ね返す力を期待されているようです。

ふぐ科の魚は皮に豊富なコラーゲンを含んでいるため、皮に弾力がありとても丈夫で、提灯として加工しやすい利点もあります。
作り方は、ハリセンボンの口元に包丁でぐるりと切り込みを入れ、身を剥がしながら、皮を脱がせるようにして剥ぎ取ります。
一枚皮の状態で剥ぎ取ったあと、お腹にオガクズを詰めて膨らませ、提灯の形になるよう整えて乾燥させて作ります。
丸くふくらんで棘を逆立てている「棘ボール」の様な愛嬌のある姿は、地元民だけでなく観光客にも喜ばれ、インテリアにもなる魔除けとして愛される土産物となっています。

魅力がいっぱい「ハリセンボン」

体中に鋭い棘をもつハリセンボンは、鉄壁の鎧を身にまとった小柄な戦士の様ですが、実は潮の流れに浮遊する泳力の弱い魚でした。
敵に遭遇しても泳いで逃げることが不得意なハリセンボンは、身を守るために鱗を鋭い棘に変え、ふくらみ威嚇する体制をとるよう進化しました。
逆立てた棘は長く鋭く、海の猛者でさえ近づくことができない完璧なガードとなります。

古代の人間は、小さい体でありながら敵を寄せつけない防御力をもつこの魚に惹かれ、神秘的な力さえ感じたのかもしれません。
昔はさまざまな生き物の力を崇拝し、それらの強い力を得るために、祈りを込めて食べて身にする行為が存在しました。
きっと古代の人たちは、ハリセンボンから「守り」の力を得ようと、熱い思いをもって食したのではないでしょうか。

天下無敵のその姿は、目に見えない魔物を恐れる人々を守る心強いシンボルとなりやすかったのかもしれません。
特に自然環境の厳しい沖縄では、食べる事が命を支える大切な滋養と考え、独自の料理が伝統的に受け継がれています。

もしハリセンボンの文化が残っている地域に足を運ぶ機会があれば、実際にハリセンボンを手に取り触れてみてください。
そして、可愛らしくも頼もしいハリセンボンの力をあなたも手に入れてみてはいかがでしょうか。

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