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天然と養殖

日本は国土をぐるりと海に囲まれており、海からの恩恵をたくさん受けています。
食卓には四季折々の美味しい海の幸が並び、豊かな食生活を送ることができます。
しかし、地球温暖化による海水温の変化や、潮流の変化、天候の変動による異常気象、人口増加に伴い魚の需要が増えたためにおこった乱獲で漁業資源が減少するなど、従来手に入れることのできた海産物が手に入りづらくなってきました。
それまで一般的な食材であったものが姿を消し、また価格の上昇のために手が届きにくい存在へと変化しています。
このような状況にある天然の海産物減少を救い、需要を安定させるために海産物の養殖は始まりました。
近年養殖技術の発達により、いろいろな魚介類が養殖されるようになり、我々の食卓を潤してくれています。
漁獲量の減少が危惧されている高級魚、ふぐも例外ではありません。
先人たちの研究と努力の積み重ねにより確立された養殖技術がなければ、「ふぐ」という古くから美食家たちの舌をうならせてきた美味しい食材を、とうの昔に食べられなくなっていた可能性もあります。
しかし、天然ふぐと養殖ふぐには何か具体的な違いがあるのでしょうか。
大海原で育つ天然ものと環境を整えた養殖場で育つ養殖ものとでは、最大の特徴である毒性の違いが現れるなど興味深い結果が報告されています。
現在ふぐの養殖場で育てられているのは、高級魚トラフグ1種のみのため、トラフグに絞って天然と養殖の違いを追ってみました。
育つ環境によってどのような違いが生まれるのか、天然ふぐと養殖ふぐそれぞれのよさを追求してみました。

天然ふぐの美味しさとは

天然ふぐの美味しさとは

世界に約430種類存在するふぐの中で、日本にて厚生労働省から可食の許可が下りているのは22種です。
その中で、最も美味とうたわれている種類は高級魚トラフグです。
その類まれなる旨味と、プリプリとした魅惑的な食感に魅了された人も多いことでしょう。

なんと、天然トラフグと養殖トラフグの価格には、5~6倍の差が出ることもあります。
歴然と価格に差をつける天然トラフグの持ち味は、外海を泳ぎ回っていることで身の引き締まり方がよく、ふぐの美味しさを語る上で外せない要素の「食感」に違いが現れるところです。

たんぱく質にはアミノ酸由来の旨味成分が含まれているため、高たんぱく質の身をもつ天然トラフグは、自ずと濃い旨味をもっているのです。
魅力的な美味しさが高評価の、天然トラフグのひみつを紐解いてみましょう。

食感が命、ふぐの身質

食材は天然ものが良いと、こだわりを持つ方がいらっしゃいます。
家畜などもそうですが自然放牧など、できるだけ人の手をかけ過ぎずにのびのびと飼育した方が、本来の味わいを楽しむことができると支持する声も多いです。
もちろん自然の生き物である以上、本来育つべき自然な環境で育ったものの方がいいという考え方は、うなずける大きなポイントでしょう。

一般的に天然魚は、広い海の中で餌を探して泳ぎ回っているため、大きな尾ヒレを優雅に動かし、貫禄のある泳ぎが見られます。
ふぐに関して言えば、天然ふぐの魅力は何と言っても弾力ある身質にあります。

例えば、ふぐ料理の代表であるふぐ刺しは、口の中でダイレクトに身の弾力が楽しめ、ふぐの旨味を堪能できるので人気があります。
しかし脂肪が限りなく少ない筋肉質なふぐの身は、活きがよすぎてはただ硬く、旨味も少ないと言われています。

実はふぐが刺身になる前に、ふぐの旨味を最高の状態で食べられるように切り身を熟成させ、繊維を軟化させるひと手間がかけられています。

ふぐは白身魚の中でも群を抜いて低脂肪、高たんぱく質の身をもつ魚です。そのため、長所である食感が、不快な口当たりとならないように配慮しなくてはいけません。
料理人は、ふぐの身をしばらく寝かせ、刺身のひと切れが心地良い噛みごたえとなるよう、計算して調理をしているのです。

旨味と食感のバランスが調節された天然ふぐは、甘く芳醇な味わいと口の中で弾むような食感が魅力の、ふぐ刺しとなり、美味しく食べることができています。
やはり、天然ものならではのプリプリとした食感はバツグンで、こだわりたくなる理由はここにあるのではないでしょうか。

枯渇する天然ふぐにどう手を差し伸べるか

鮮魚の美味しさを支える「熟成」の大切さ

いくら天然といえど、鮮度が悪い魚や熟成度合を間違えた身は、その美味しさを半減してしまうものです。
広い海を泳いで育った天然トラフグの引き締まった身質は素晴らしいですが、水揚げ時に急激なストレスを与えてしまうので、漁獲後の管理次第でせっかくの身質を悪化させてしまうことも少なくありません。
天然ものだからといって無条件によい訳ではなく、漁獲後のシメ方、保存方法、熟成などにより、魚の美味しさは左右されるものなのです。

魚の活きシメは鮮度もよく贅沢なイメージですが、シメた直後は身が硬く、熟成ならではの豊かな美味しさを十分に味わうことはできません。
「熟成」とは、鮮度のよい魚を手際よくさばき、温度や湿度などをきちんと管理した状態で一定時間寝かせ、旨味成分が増す絶妙な状態へと美味しさを引き出すことです。

シメた後、魚の体内では化学変化が起こります。
筋肉中のATP(魚のエネルギー源)が分解して低分子化されることでイノシン酸(アミノ酸由来の旨味成分)が増加し、筋肉の硬直がとけて身質が柔らかくなっていきます。
とりわけふぐは高たんぱく質のため、たんぱく質が分解されてできる旨味成分のグルタミン酸が豊富につくられます。
もともと濃い旨味をもっているふぐは、さばいた後の「熟成」でさらに旨味がグンと増し、程よい食感の身質に変化していくのです。

この経過の見極めは難しく、熟成が甘いと旨味が足りず身も硬く美味しさを味わいきれません。
逆に熟成させすぎると、旨味は減少し身がぐにゃぐにゃと軟らかくなってしまい、美味しさも食感も損なわれてしまうのです。
そのため料理人には、よい魚を見る確かな目利きと、熟練の経験による魚の状態を見極める確かな技術が必要となります。

天然トラフグは養殖トラフグより筋肉質なので、たんぱく質に含まれるグルタミン酸は熟成を経て爆発的に増加します。
プロの料理人が天然ふぐと養殖ふぐの味を比べると、天然ふぐの旨味はうなるほどの深みがあるそうです。

しかし前途したように、天然だからこそ身質の劣化がおこる場合もあります。
天然ふぐ、養殖ふぐどちらも、ひとつひとつのふぐの個体に合わせて計算された熟成で、美味しさは何倍にも引き立つのです。
どんな食材も、その美味しさを活用しきれなければもったいないですね。

養殖ふぐの名産地たち

養殖ふぐの名産地たち

ふぐの養殖事業は遅咲きで、昭和8年(1934年)に山口県にてトラフグを短期間育てたのが始まりと言われています。
現在ふぐの養殖は、最東の愛知県から主に西の暖かな地域で多く取り組まれています。

ふぐの養殖が本格的になったのは、天然トラフグの減少が大きな原因と言えます。
トラフグ人気は年々高まり、高い値のつく天然トラフグは生産者側から見ても魅力的な事業のため、無理な乱獲が続いていました。そして気づいた時には、資源が枯渇寸前の危機的状況に陥っていたのです。

天然とらふぐの減少の理由として、昭和初期から日本の人口は右肩上がりへと増加しており、その頃からヘルシーな魚料理に人気が集まってきたという背景があるのではないかと考えます。
加えて高度経済成長期に入った日本は、漁獲技術の向上による水産資源の乱獲や利便性を求めた沿岸部の工事などを行い、生態系のバランスを崩していってしまいました。
以前のように安定して魚を漁獲することが難しくなり、需要と供給のバランスが崩れてしまったのです。

その問題を改善すべく立ち上がったのが魚の養殖事業でした。
効率よく安定して美味しい魚を提供できるよう取り組んだ魚の養殖は、今では主力となって私たちの食卓を潤してくれています。

現在私たちが美味しいトラフグ料理を楽しめるのは、天然トラフグの資源を守り、代わりにトラフグ養殖事業の成功があったからに他なりません。
養殖ふぐの主要産地を紹介すると共に、現在トラフグが直面している問題から養殖ふぐの必要性を語ります。

養殖ふぐの主要産地

ふぐの名産地と言えば、山口県下関市の名を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
山口県はふぐ食文化が栄えており、ふぐ養殖事業も盛んです。

日本一は下関!と思いきや、ふぐの水揚げ高も養殖ふぐ水揚げ高も、全国1位ではありません。
下関市が有名なのは「ふぐの取扱量全国1位の魚市場」つまり、ふぐの集積場としての役割が強い街と言えます。

ふぐは毒をもっている魚のため、市場へ出回る前に有毒部位除去の「身欠き」と呼ばれる一次加工を経て出荷されます。
古くからふぐ食文化が根づいていた下関は、ふぐをさばく「身欠き」の作業を行える料理人が多く集まっています。
そのため下関市は、日本で一番ふぐが集まる魚市場をもち、身欠きの取扱量1位を誇っているのです。

2015年統計では、長崎県が養殖ふぐの水揚げ高全国1位で、全体の約75%を占めるダントツの結果となっています。
長崎県は有明海の恩恵を受ける島や半島の多い県で、波の静かな入り江が多く、養殖に適した立地条件に恵まれています。

長崎県では、他県と差別化を図るため「長崎ふく」とブランド化した特別なふぐを提供しています。
「長崎ふく」は、個体800g以上の大きさがあり、ヒレの欠損がなく、長崎県生産者認定業者で生産履歴書を添付されたトラフグとの規定があり、出荷期間もとらふぐの旬である10月~3月と決められています。
味も見た目も良いふぐは好評で需要も多く、益々長崎県の養殖業は勢いにのっていくことでしょう。

とらふぐの養殖水揚げ高は、次いで2位に熊本県、3位に愛媛県、そして山口県は4位にランクインしています。

養殖ふぐの必要性

養殖ふぐの研究が本格化しはじめた昭和30年代、当時天然ふぐの需要と供給のバランスはよく、養殖ふぐの必要性は見出されていませんでした。
しかしふぐの需要は年々増加していく反面、天然ふぐの漁獲量は減少の一途を辿り、その状況をカバーするべくふぐ養殖業は本格的に取り組まれていきました。

昭和50年代に入ってようやく、ふぐの養殖事業は表舞台に出てきます。
天然ふぐの減少が危ぶまれる中でも、高値のつくトラフグを中心に天然ふぐの乱獲は続き、平成に入った頃には、養殖ふぐが天然ふぐの水揚げ高を上回るようになりました。
天然トラフグの資源を回復させるためにも、消費者への安定供給のためにも、トラフグ市場は養殖トラフグに希望を託すようになります。

そもそも高級魚のトラフグは、裕福な方達が高級料理店で楽しむような魚だったはず。
現在私たちがトラフグを美味しく味わえるのは、コツコツと研究を続け努力で花開かせた養殖ふぐの存在による所が大きいのではないでしょうか。

しかし、現在養殖トラフグの種苗(養殖用の稚魚)は、天然トラフグを親魚にして確保している状況です。
親魚の確保できなければ養殖ふぐの増産は難しいため、トラフグの食文化を繋げていくには天然トラフグの保全は必須なのです。

とくに産卵期の天然トラフグを必要以上に乱獲してしまうと稚魚の数が激減してしまうので、自然界に対する配慮が必要です。
養殖トラフグの存在は、トラフグ食文化を受け継ぐ私たちにとって安定した供給が望める大きな存在となっています。
さらに漁業関係者にとっても、天然魚と比べて捕獲に費やす手間とコストを抑えられるため、養殖ふぐの必要性は今後ますます高まっていくことでしょう。

ふぐ養殖までの試行錯誤と守るべきふぐ食文化

天然と養殖、それぞれのよさ

天然と養殖、それぞれのよさ

「天然トラフグ」と「養殖トラフグ」には、それぞれのよさがあります。

天然トラフグは、自然界の恩恵を受けながら外海で自由に泳ぎ回っているため、ふぐならではの特徴であるプリプリとした弾力のある身質をもち、天然ならではの濃い味は絶品です。
生きる場所を自分で選んで育ち、自由に餌を食べて成長した自然な姿そのものが、天然のよさでしょう。

一方養殖トラフグは、全国のふぐを扱う料理店や販売店から見て、無くてはならない存在です。
いけす内の水質や水温を適切に調整しながら、毒性を伴わないバランスの良い餌を吟味して与え、育てています。
年間安定して美味しいトラフグを供給できるという点は、養殖トラフグの価値そのものです。
養殖業界は、天然トラフグの味わいに近づく育成を努力し続けており、餌や飼育方法の改良で、美味しいトラフグが流通するようになりました。

天然ふぐと養殖ふぐそれぞれのよさと、養殖ふぐが秘めている新しい可能性のお話を綴ります。

天然ふぐと養殖ふぐの違いは簡単にわかるのか?

天然ふぐと養殖ふぐの見極め方は、一般的に尾ヒレを見ると見分けやすいと言われています。
ふぐはとても繊細な気質の魚でストレスに弱く、囲まれたいけす内で育つ養殖ふぐは、自分の前方を泳ぐふぐの尾ヒレに噛みつくことがあります。
そのため養殖ふぐの尾ヒレは、きれいな扇状に広がらずギザギザとした欠けが見受けられ、比較的短い形状となります。

養殖場では、ふぐ同士の噛み付きによる傷を減らすため、1匹1匹ふぐの歯切りをしており、口元を見ると養殖ふぐだとわかるようです。
その点、天然ふぐは口元がキレイです。
そして広い海でゆったりと泳ぎ回っているため尾ヒレが長く大きく発達しており、違いはわかりやすいのです。

しかし一般の人が目にするふぐは、有毒部位と共に頭やヒレも処理された身の部分だけが市場に回るため、歯や尾ヒレが残っていない状態のものがほとんどかと思います。
お店でも刺身やちり鍋、唐揚げなど、調理された状態なら、見た目での判別は難しいかもしれません。

では、味の違いを食べ比べれば見分けられるでしょうか。
同じ大きさの個体なら、差はあるかもしれません。
しかし、小さな天然ものと、大きな養殖ものならどうでしょうか。

ふぐ料理人は素材の特性をよく知ったうえで、ふぐの美味しさを最大限に引き出して調理しています。
トラフグは養殖であっても、他の魚では類をみない満足のいく旨味をもち、美味なる味わいを楽しめます。
そのため個体差のある二匹を味比べすると、天然か養殖かを判断するのは難しいと思われます。

天然の一番の特徴は食感です。
そこがわかれば、判断できるかもしれませんね。

料理によって引き立つ天然と養殖のよさ

ふぐ料理の二大看板といえば、ふぐ刺しとふぐちり鍋です。
前述したようにふぐ刺しにおいて、食感は美味しさの大切な要素のひとつです。
そのため引き締まった身質の天然ものは、ふぐ刺しにおいて非常に価値があると言えます。
食感を楽しむふぐ刺しは、天然ものならではの心地よい歯ごたえを最大限に活かす料理なのです。

一方ふぐちり鍋は、養殖ふぐのよさを活かせる料理と言えます。
ふぐちり鍋はふぐ(骨まわり)からでる濃厚な旨味が凝縮された、出汁の存在が重要となってきます。
旨味溢れる出汁を抽出するには、ふぐの大きさが大切です。

ふぐちり鍋はふぐのアラや骨付きの身を入れ、それらから出る出汁が美味しさの要となります。
そのため小振りな天然ふぐよりも、大きめの養殖ふぐの方が、しっかりとした出汁を味わうことができるのです。
養殖ふぐは天然ふぐに比べてリーズナブルですが、美味しいふぐ鍋の醍醐味である濃い旨味の出汁を堪能できる料理なのです。

育つ環境と毒の有無

強力な毒をもつ魚としても有名なふぐですが、生まれてきた時は無毒といいます。
驚くべきことに、ふぐ毒は先天的なものではなく、餌を摂取することで毒素を体内に取り込み蓄積させる後天的なものだと判明されました。

ふぐは、危険がせまった時に体表から毒を放出させたり、産卵の時期には毒性を強めたりと、状況に合わせてコントロールする能力もあるようです。
また同じ種類のふぐでも棲んでいる海域によって餌が異なるため、1匹1匹がもつ毒量に大きな差が出ることもあります。

どうしてふぐは毒を蓄積するのか、ふぐ自身はその毒に当たらないのか、ふぐと毒にまつわる謎はまだまだ深く、研究は継続中です。

海洋細菌を含む餌を食べている天然ふぐは、毒量に関わらず100%毒を保有しています。
しかし餌をコントロールできる養殖なら、外海から完全にシャットアウトすれば無毒のふぐを育てられると考えられています。

テトロドトキシンという不思議なふぐ毒、その謎に迫る

養殖ふぐがもたらす幻の味とは

ふぐの養殖方法には、海にいけすを作る海面養殖と、海から離れた土地にいけすを作る陸上養殖があります。
近年、陸上養殖の中でも、飼育水を濾過循環して浄化する閉鎖循環式養殖が注目を浴びています。
閉鎖循環式養殖のふぐは育てる環境や餌をコントロールできるため、ふぐに新たな味わいを生む可能性を期待されています。

養殖場で新たに取り組まれているのは、「無毒ふぐの生産」を実現することです。
海洋細菌によって毒を取り込むふぐは、外海から完全に隔離されたいけすで水質管理をし、厳選した餌のみを与えると理論上毒をもたないふぐが育ちます。

現在、有毒部位として食用を禁止されている肝臓を、無毒のふぐを育て食用可能な部位として食用の許可を認めてほしいとの動きがあります。
無毒ふぐの養殖技術は確立されているようですが、国はまだ「ふぐの肝」の食用を認めてはいません。

現在のようにふぐに関する条例や資格が確立されていなかった時代、ふぐの肝は一度食べたら忘れられない美味しさゆえに誘惑が強く、その美味しさを求めて食した人の命を多数奪ってきました。

歌舞伎役者の八代目坂東三津五郎氏が、ふぐの肝を4人前食べ中毒死した事件は有名です。
危険を知りながらも4人前の肝を注文した坂東三津五郎氏に非があるのか、提供した板前に非があるのか論争となりました。

しつこく料理をせがむ坂東三津五郎氏と、拒みながらも料理をしぶしぶ出すしかなかった板前のどちらに落ち度があったのでしょうか。
なんと、ふぐ処理の有資格者でありながら有毒部位を不適切に提供したということで、業務上過失致死罪と京都府条例違反で執行猶予付きの禁固刑が板前に言い渡されました。

現在ふぐの肝食は固く禁じられていますが、今後ふぐの無毒化が確実になされれば、当然肝臓も食べることができるようになります。
幻の味、ふぐの肝を食べられる日はやってくるのでしょうか?

幻の珍味である肝臓を普通に食べられるようになったらと、佐賀県は無毒の養殖ふぐを使用した肝臓料理を提供できるように「ふぐ肝特区」の申請を2004年厚生労働省に提出しましたが、認められませんでした。

ふぐの肝は美味で魅力のある食材なのですが、なにせ命に関わる問題のため、なかなか認可がおりません。
万が一の事態は許されない、難しい課題ですが「無毒のふぐ」を健康的に確実に育て上げるプロセスが確立されれば、幻のふぐ肝を味わえるようになるかもしれません。

天然ふぐの未来と養殖ふぐの可能性

天然ふぐの未来と養殖ふぐの可能性

私たちがふぐを好む理由は、食べ慣れた「旨味」成分を豊富に含む食材で美味しいと感じるからです。
旨味は、日本人が発見した味覚です。
ふぐには、イノシン酸とグルタミン酸のふたつの旨味成分が混在し、他の魚では代役がつとめられない濃厚な味わいを得られるからです。

天然トラフグは自然海で育ったトラフグ本来の身質を誇り、正にプレミアムな味わいです。
丁寧に熟成された天然トラフグの身は、うっとりとするような旨味をふくらませ、魅惑の美味しさをもちます。
しかしながら、人間による乱獲や気象異常による環境の変化などにより生息数が激減してしまった天然トラフグは、年々漁獲量も減少傾向にあり、非常に高値で取引される魚となっています。

漁業関係者は魅力的な商材であるトラフグを、何とか安定供給するためにとトラフグの養殖に力を入れてきました。
養殖魚の中でもふぐは他の魚にはない生態があるので、飼育に関する研究も大変でした。
そのうえ水槽の管理費、噛み付き防止のために歯切りの作業もあり、人件費など手間とコストがかかるので大変です。 しかしこの養殖トラフグが発展したおかげで、今でも多くの方がトラフグの美味しさを味わい、ふぐ食文化は途絶えることなく続けることができています。

何と言っても養殖トラフグの利点は、年間通して安定した品質のトラフグを供給できることです。
管理されたよい環境の元、トラフグの最も美味しいと言われている2~3㎏のサイズまで育て上げ、一番美味しいタイミングで出荷をすることができます。

天然資源を守りつつ、天然もののふぐに近づく味を作り出すことが養殖ふぐの目標となっています。
そして現在はコストが高くなっている養殖費用を抑えることで、より身近な価格の養殖トラフグを生産できるよう努力しています。
そうすることでもっと多くの方にトラフグを食べてもらうことができ、このふぐという素晴らしい魚の旨味や料理に関する技術を見て知ってもらうことができます。

さらに、養殖ふぐの無毒化を100%確立させれば、和食の世界に新しく珍味とも呼べる食材「ふぐの肝」が誕生するかもしれません。
天然トラフグの資源を未来へ繋ぐため、そしてふぐの新しい食文化を切り開くため、ふぐの養殖事業は今後ますます需要を伸ばしていくことでしょう。

これからもふぐ食文化を守るために、天然ふぐの資源を大切にしながら、ふぐの養殖事業を頼りに美味なるふぐを守っていけたらと願うばかりです。

ふぐ料理が魅せるシンプルかつ手厚い逸品の数々
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