海のフォアグラ「あん肝」
世界三大珍味として名高いフォアグラはガチョウやアヒルの肝臓のことで、餌をたくさん与えて肥大させたフォアグラは、フランス料理の代表的な食材です。
フォアグラは自然と育つ食材ではないため、その希少性と濃厚な美味しさから高級食材として扱われています。
実は、海の中には天然の「フォアグラ」と呼ばれる食材が存在します。
それは光が届かない暗く深い深海に棲む、深海魚あんこうの肝臓です。
「海のフォアグラ」と賞賛され、元来のフォアグラと比べても引けを取らない美味しさに人気を集めています。
あん肝の魅力は味だけでなく、栄養価が高く、現代人に不足しがちな栄養素を豊富に含有しているという点です。
あん肝の栄養素が身体へどのような嬉しい効果をもたらしてくれるのか、あん肝に隠された美味しいひみつをのぞいてみましょう。
また、家庭で気軽に「フォアグラ」が堪能できる、あん肝を使った簡単なメニューも併せて紹介します。
あん肝の栄養素を見てみよう
あんこうの肝臓は脂肪分が高く、とろけるような舌ざわりと旨味溢れる深いコクがあり、数多の人々を魅了している極上の海鮮です。
あん肝の魅力は、うっとりとするほどの旨味だけでなく、優れた栄養価に秘められています。
例えば、ビタミンA(レチノール)やビタミンB12をはじめ、普段不足しがちな栄養素の含有量がトップクラスであることを誇ります。
あんこうの旬は冬で、春に迎える産卵を前にして栄養を蓄えた肝が大きくなる時期です。
あん肝の栄養素をひとつひとつ見ていくと、古くから人々が寒い冬の健康維持のためにも取り入れていた食品だったのだろうと想像できます。
では、あん肝を食べると、具体的にどのような効果が期待できるのでしょうか。
厚生労働省が出している日本食品標準成分表(2015版)による順位も合わせて見ていきましょう。
栄養満点!あん肝の素敵な栄養素
あん肝に多く含まれている栄養素は、ビタミンA(レチノール)、ビタミンB12、ビタミンD、ビタミンE(トコフェロールα)、セレン、DHA、EPA等があります。
他の食品と比べても、各種栄養素の含有量上位に入るものが多く、驚きの力を秘めた食材と言えます。
それぞれ気になる栄養素ごとに特徴を紹介します。
ビタミンA(レチノール)
(一日の推奨摂取量:成人男性800~900㎍、成人女性650~700㎍)
脂溶性ビタミンの一種で、動物性に含まれているビタミンAは「レチノール」と呼ばれる種類です。
「目のビタミン」と言われるほど、視覚の正常化に働きかけるビタミンです。
ビタミンAはあん肝100g中に8,300㎍ほど含まれており、食品成分表では上位4位にランクインしています。
ビタミンB12
(一日の推奨摂取量:成人男性及び成人女性共に2.3~2.5㎍)
水溶性のビタミンB群の一種であるビタミンB12は、赤血球の形成に必要な栄養素で、不足すると悪性の貧血を引き起こします。
ビタミンB12は、遺伝子を構成する核酸の合成に関与しており、核酸は細胞の分裂・分化には欠かせないものです。
DNAやたんぱく質合成の調節や補酵素として、多くの代謝に関わっています。
ビタミンB12はあん肝100g中に39.1mgほど含まれており、スルメの約3.7倍あります。
ビタミンD
(一日の推奨摂取量:成人男性及び成人女性共に5.5㎍)
ビタミンDは動物性と植物性の二種類が存在し、あん肝のビタミンDは、ビタミンD3(コレカルシフェロール)になります。
脂溶性のビタミンの一種で、小腸や腎臓でカルシウムやリンの吸収をサポートし、血液中のカルシウムの濃度を保つ骨の健康維持には欠かせない栄養素です。
ビタミンDはあん肝100g中に110㎍ほど含まれており、食品成分表では上位3位にランクインしています。
ビタミンE(トコフェロールα)
(一日の推奨摂取量:成人男性6.5mg、成人女性6mg)
脂溶性のビタミンの一種で、ビタミンEを作用する4種類のトコフェロール中最も作用の大きいトコフェロールαを摂取基準の量として計算されています。
アンチエイジングの作用で話題のビタミンEは、抗酸化作用をもち「サビない身体作り」をサポートしてくれます。
脂質や細胞膜の酸化を防ぎ、血管を拡張し血液の流れをスムーズにしてくれます。
ビタミンEはあん肝100g中に13.8mgほど含まれており、西洋カボチャの約2倍あります。
セレン
(一日の推奨摂取量:成人男性30㎍、成人女性25㎍)
生体の抗酸化システムの中で、不可欠な栄養素と言われており、ビタミンEの60倍以上の抗酸化作用をもっています。
抗酸化酵素と甲状腺ホルモンを活性化させる酵素に必要なミネラルの一種です。
魚介類、肉類、卵など、動物性の食品に多く含まれています。
セレンはあん肝100g中に200㎍ほど含まれており、食品成分表では上位5位にランクインしています。
DHA(ドコサヘキサエン酸)
(一日の推奨摂取量:成人男性及び成人女性共に1,000mg)
n-3系(オメガ3)多価不飽和脂肪酸であるDHAは体内で合成することが出来ないため、食物から摂取する必要のある必須脂肪酸です。
脳の発達には欠かせない脂肪酸で、融点が低く、低い温度でも固まりにくい性質の脂です。
DHAはあん肝100g中に3,600mgほど含まれており、食品成分表では堂々の1位にランクインしています。
EPA(エイコサペンタエン酸)
(一日の推奨摂取量:成人男性及び成人女性共に1,000mg)
DHAと同じくn-3系(オメガ3)多価不飽和脂肪酸であるEPAは、体内でDHAに変換される作用もあるため、しっかりと摂取することでDHAも補うことが出来ます。
血流を改善する脂肪酸で、血小板の凝集を抑制する効果があり、「血液サラサラ効果」とうたわれています。
DHAと同じく体内で合成出来ない脂肪酸のため、近年積極的に摂取を勧められている脂肪酸です。
EPAはあん肝100g中に2,300mgほど含まれており、こちらも食品成分表では堂々の1位にランクインしています。
あん肝の嬉しい健康効果と注意点
栄養を貯蔵する器官であるあんこうの肝臓には、人の身体に活力を与えてくれる栄養素が多く含まれています。
あん肝の栄養素がもたらす健康効果の例として、夜盲症の予防、肌や粘膜の保護、アンチエイジング、動脈硬化の予防、免疫力向上、滋養強壮、抗血栓作用、血流改善、認知症予防、骨粗鬆症予防、抗酸化作用など、多くの効果が期待できます。
あん肝は身体全体の機能を活性化させ、老化防止に役立つ優れた食材だということがわかります。
そして、あん肝の糖質は100g中2.2gと低いので、低糖質を心掛けている人には嬉しい食材でしょう。
しかし良いことばかりではありません。
あんこうの肝臓は脂肪分を多く含む部位のため、100gで400kcalをオーバーするほど高カロリーな食材だということです。
とろけるような口溶けがたまらないマグロのトロの部分と比べると、あん肝はその約2倍の脂肪量を含んでいる部位になります。
女性に嬉しい成分も多く含むあん肝ですが、食べ過ぎには気をつけた方が良さそうですね。
また妊娠中の方は、ビタミンA(レチノール)の過剰摂取は胎児の発育に悪影響を及ぼすため、注意が必要です。
各種栄養素を豊富に含んでいるあん肝は、小鉢一杯で十分な栄養を摂取できるため、適量を時折美味しく堪能したいものです。
あん肝調理のいろは
あん肝の素晴らしい栄養素と効果効能が分かると、どこで食べられるのかな?と知りたくなったことでしょう。
あんこうの肝は、春先の産卵にむけ栄養を蓄え肥えたものが美味しく、旬は11月~3月の冬の味覚となります。
居酒屋に出向くと、冬のお勧めメニューとしてあん肝ポン酢がお品書きに加わります。
そしてスーパーや魚屋さんにも、鍋の具材と共に陳列され始めます。
「でもあん肝の調理、素人には難しそう・・・」と、不安に思う人もおられるでしょう。
しかしあん肝は下処理さえきちんとすれば生臭みもなく、美味しいあん肝料理を家庭に取り入れることができるのです。
では、美味しく食べて身体も喜ぶ、あん肝を使った料理を紹介します。
生臭さは下処理で解決
優れた栄養価をもつあん肝ですが、どのように調理をしたらよいのかわからず手を出せていない人も多いのではないでしょうか。
まず、きれいな薄ピンク色をしたふっくらとしてつやのある鮮度のよいあん肝を選びましょう。オレンジ色に見える部分は脂肪で、あん肝の旨味が強い部分になります。
寄生虫対策の観点から、生のあん肝の扱いに慣れていない方は、家庭での生食は避け、加熱調理されることをお勧めします。
下処理には少しの手間がかかりますが、あん肝の魅力を最大限に引き出す大切な工程 ですので、ぜひ挑戦してみてください。
あん肝料理を家庭に取り入れやすくなる、大切な下処理を解説します。
まず、あん肝を水洗いします。
冷凍されたもの以外のあん肝は、アニサキスに注意し、見つけたらピンセットなどを使って除去します。
あん肝の裏側に見える太い血管や大きな血合いは、手や包丁を使ってきれいに取り除きます。
表面に薄皮が付いているのでやさしく手で剥がしていきます。薄皮は取り残しがあっても問題ありませんが、調理によっては口当たりに差がでてきます。
少し形が崩れても成形したり潰して使うので心配はいりません。
ボウルに水と日本酒を1対1、塩2%を加え、あん肝を浸します。軽くもんで血抜きをします。
30分ほど浸けることで、あん肝の臭みを取りながらほのかな下味を付けることができます。
軽く水洗いし、ペーパータオルなどで水気をとれば、下処理完了です。
作業としては難しいことはないのですが、もっと簡単に、下処理済みの便利なレトルトあん肝や冷凍あん肝も販売されているので、それらを活用してみるのもいいですね。
あんこうの肝を使った絶品メニュー
あん肝は、焼く、蒸す、茹でる、揚げる、となんでもござれの食材です。
下処理をして蒸し上げたあん肝は、定番のあん肝ポン酢だけでなく、和食以外の調理に利用し、楽しむことができます。
王道の冬の定番どぶ汁とはひと味違う、作ってみたくなるアレンジメニューなど、いくつか紹介します。
あん肝ポン酢
王道で最も手軽なあん肝メニューです。
下処理をしたあん肝をラップやアルミホイルで包んで棒状に成形します。
20分~30分ほど中火で蒸し上げて、粗熱が取れたら冷蔵庫で冷やし、適度な厚さに切り分けて盛り付けます。
小ネギともみじおろしを添えてさっぱりとしたポン酢をかけていただきます。
あん肝のソテー
あん肝を適度な大きさに切り分け、小麦粉などの粉をまぶし、バターやオリーブオイルなどでソテーします。
とろけやすいあん肝は、火を入れすぎると形が崩れてしまいます。蒸し終えたあん肝を使うのがきれいに仕上げるコツです。
両面に焼き色がついたら手早く火から下ろしましょう。
バルサミコ酢やバターベースのソースとの相性は抜群で、フォアグラに負けない美味しくお洒落な一皿になります。
あん肝の天ぷら
蒸したあん肝を切り分け、てんぷら粉をつけて170℃の油でカラッと揚げます。
衣のサクサクとくちどけの良いあん肝のハーモニーは格別です。
ポン酢はもちろんのこと、塩やレモンを絞って食べても美味しいです。
あん肝クリームパスタ
濃厚なあん肝のコクを生かしたイタリアンメニューです。
蒸したあん肝をオリーブオイルと一緒に潰しながら炒めます。
パスタの茹で汁少々を加え、生クリーム、塩、こしょうで味を整えてソースを作ります。
そこへ茹で上がったパスタを加えて和えれば、あん肝クリームパスタの出来上がりです。お好みで粉チーズやブラックペッパーでアクセントを加えると楽しい一品です。
あん肝のお味噌汁
少し残ったあん肝を利用できる、家庭料理ならではのメニューです。
いつもの味噌汁に、蒸したあん肝を粗めに刻んで入れると、栄養満点でコクのある味噌汁が出来上がります。
白菜や水菜などの葉物や大根や人参などの根菜類とも相性がよいので、好みの具材でチャレンジしてみてください。
天然のフォアグラ「あん肝」
「海のフォアグラ」と称されるほど、濃厚で味わい深いコクをもつあん肝は、人々を魅了する美味しさだけでなく、内側からも活力を与えてくれる素晴らしい食材でした。
一匹のあんこうから一腹しか取れないあん肝は、大変貴重な食材と言えます。
数ある食材の中で、あん肝がこれほどまでに栄養価の高い食材と知り、驚いた人は少なくないはずです。
伝統的に食べられてきたあん肝は、視覚維持、貧血予防、骨や血の健康、身体の抗酸化作用など、人の健康をサポートするありがたい食材です。
あん肝の主要な栄養素は、軒並み全食品類の中でトップクラスの含有量を誇り、これほどまでに栄養が詰まった食材は他になかなか見つからないかもしれません。
冬になると、スーパーや鮮魚店で生のあん肝が販売され始め、あんこうの美味しい季節の到来に気付くでしょう。
あん肝はお酒のアテという小鉢のイメージがあったかもしれませんが、ソテーやパスタなどにすると洋風料理としてメインの一品にもなります。
旬の食材を家庭で調理し、あん肝の美味しさと栄養を取り入れることは難しくありません。
また外食先で冬の風物詩となるあん肝料理に目が止まったら、食わず嫌いだった方も挑戦し、身体に栄養補給してみてはいかがでしょうか。
風味も栄養も濃いあん肝を時折適量ほどを楽しめば、心も身体も喜ぶこと間違いなしです。
海の恵みといえる天然のフォアグラ「あん肝」は、魅力の詰まった優秀な食材なのです。
[2024-02-16作成/2024-10-11更新]
(c)ふるさと産直村