食の潤い~天然真鯛と養殖真鯛~
「縁起のよい食材と言えば?」と聞かれると、その答えに必ずランキング入りする鯛。
婚礼やお食い初め、正月など、さまざまな祭事や慶事に鯛が用いられ、古来より祝祭に相応しい魚として珍重されています。
鯛の中でも真鯛は輝く赤い体色や姿形が美しく、魚類の中でも長生きであることや、恵比寿様が抱えている様子など、おめでたい印象が強い魚です。
真鯛はクセのない白身魚で、刺身でも、煮ても焼いても美味で、傷みにくく調理方法を選ばないという万能な食材です。
一年を通して食べられている鯛ですが、天然物だけでは需要に追い付かず、安定供給ができるようにと養殖業が盛んになりました。
現在流通している真鯛の約8割は養殖物が占めており、養殖技術の発展のおかげで私たちは継続して真鯛を楽しみ、華やかな食卓を潤すことができています。
ところで、天然と養殖の違いは然り、1年に2度訪れる旬や、漁獲方法、餌や生息場所によって個性が光る真鯛の魅力をご存じでしょうか?
天然真鯛と養殖真鯛の違いや名産地、数あるブランド真鯛の特徴や漁獲量ランキングなど、真鯛に関する豆知識をまとめました。
私たちに馴染深い魚の真鯛について、その知識を共有していきましょう。
日本人にとって特別な魚である真鯛は生産者の思いも特別です。
天然真鯛のうんちく
美しい和の響きの呼び名をもつ「桜鯛」と「紅葉鯛」をご存知でしょうか。
鯛の種類のひとつかと思われるかもしれませんが、この二つはどちらも真鯛の別名になります。
日本全域の近海に生息している天然真鯛の旬は年に2回訪れ、ふたつの季節を彩るそれらは、どちらも見た目の美しさに加え、栄養価や味もぐんと上がる最高の海の幸です。
真鯛は北海道以南から南シナ海北部、朝鮮半島南部、台湾沿岸と広く分布しており、浅瀬から深海まで広範囲に生息しています。
潮流の激しい海域に生息している天然真鯛は、荒波に揉まれて強くなった筋肉と発達したヒレをもち、シャープで凛とした美しい姿をしています。
そのため、桜鯛と紅葉鯛には天然ならではの引き締まった身質と極上の味わいがあります。
しかし天然真鯛の漁獲量は減少傾向にあり、現在流通している真鯛うち、天然物は約2割弱と貴重な存在となっています。
日本近海の名漁場として名高い天然鯛の名産地には、共通点があるようです。
真鯛の好む岩礁があり、温暖で、餌となる良質なエビやカニが豊富な沿岸で、自ずと真鯛が集まる海です。
天然真鯛の旬と名産地、漁獲量のランキングを一挙にご紹介します。
桜鯛と紅葉鯛
桜の咲く春に体色が桜色に変化する桜鯛と、木々が色づく秋の紅葉の季節に美味しさを迎える紅葉鯛の特徴を紹介します。
ひとつめの旬の時期となる春、「桜鯛」は3月~6月に産卵期を迎えた天然真鯛を指します。
四季を感じる桜の名を冠する桜鯛は、輝く華やかなピンクの色合いがめでたく、春の訪れを味わう祝魚として人気があります。
春は卒業、入学などの祝い事が多く、桜色した美しい桜鯛は、目からも春を感じることができ、新たな門出を彩ります。
真鯛は、海水温が18℃を超えると行動が活発になり、食欲旺盛になります。
この時期になると雌の体色は美しいピンク色に変化し、雄はピンク色の体色に加えて体に桜の花びらのような斑点が現れることから、「桜鯛」と呼ばれるようになりました。
海水温に差のある海域によって産卵時期はずれるため、瀬戸内付近で4月~5月、東北方面で6月頃から産卵期を迎え、北上するほど遅くなります。
桜鯛は、初夏の産卵に向けての荒食いが始まり、小魚やエビやイカ類をよく食べます。産卵に備えて栄養や脂を蓄えるので、桜色に変色する時期の真鯛は美味しくなると言われています。
通の人の中では、桜鯛は雌より雄の方が安定して脂が乗り、ハズレがないと評価されています。
なぜなら、産卵直前の雌は麦鯛と呼ばれ、卵に栄養を取られるため卵巣が肥大し、餌をあまり食べられなくなるため、味が衰えてきてしまうからです。
ふたつめの旬の時期となる秋、11月~12月中旬頃水揚げされる真鯛を「紅葉鯛」と呼びます。
春の産卵を終えた真鯛は暑い夏を乗り越え、次は冬の寒さに備えて体力回復のために荒食いし、たっぷりと栄養を取り込んで丸々と肥えはじめます。
夏は真鯛の餌となるエビやカニ等の甲殻類が豊富となるため、天然色素であるアスタキサンチンを多く取り込む紅葉鯛は、桜鯛に比べて色が濃く、紅葉のような赤みのある体色になります。
紅葉鯛は雌も雄も大差なく美味で、上品な甘味のある身と、しっかりと蓄えた脂乗りのよい旨さが乗りに乗った味わいを堪能できます。
天然真鯛の漁獲量ランキング
温暖な海域を好む真鯛は、西日本に多く生息していることから、日本海や東シナ海、瀬戸内海などに面している西の地域が漁獲量の首位を占めています。
天然真鯛の国内漁獲量の約半分は、長崎、福岡、愛媛、兵庫、島根の上位5県で満たされています。
2019年の真鯛の全国漁獲量(養殖を除く)は15,953tで、ここ10年の年間漁獲量と比較しても、15,000t前後とおおむね横ばいで推移しています。
2019年実績を参考に、漁獲量上位の都道府県と、主要産地をまとめました。
長崎県(2,130t)
全国漁獲量の13.4%を占める長崎県における主要産地は、平戸市、佐世保市、長崎市です。
九州西方沖に広がる黒潮と、東シナ海の海流が混ざり合った対馬海流(暖流)が流れる長崎県の近海は、餌となるプランクトンが豊富で、真鯛以外でも多種多様な魚が回遊する名漁場となっています。
五島列島をはじめとする、日本有数のリアス式海岸の入り組んだ地形は、複雑な流れの速い海流の厳しい環境にあり、肉厚で身の引き締まった美味しい真鯛を育てています。
長崎県近海で獲れる真鯛は3月上旬から6月に産卵を迎えます。そのため産卵に向けて栄養と脂を蓄える冬から春にかけてが最も美味しい旬と言われています。
特に、一本釣りや定置網で丁寧に釣り上げた質の良い長崎のこだわりの天然真鯛は、一流料亭に卸されるなど高級食材として扱われています。
長崎県佐世保市では、活きのいい真鯛を塩釜で焼き上げた「鯛のかぶと焼」が郷土料理として有名です。
福岡県(2,045t)
全国漁獲量の12.8%を占める福岡県は、主要産地の糸島市を中心に、福岡市、北九州市で、波の激しい玄界灘で育まれた身の引き締まりのよい天然真鯛が漁獲できます。
糸島市は、天然真鯛の漁獲量が2012年から9年連続日本一(農林水産省発表の海面漁業生産統計調査・市町村別)になった好漁場です。
玄界灘は、九州の南部で分岐した流れの速い黒潮の通り道で、狭く浅いこの水道を黒潮が通ることで、激しい潮流が生まれます。この強力な潮流の中で生きている真鯛はプリプリとした弾力のある身質になります。
また、砂泥質の海底に生息するエビやカニ、小魚などの栄養豊富な餌を食べて育つため、旨味と甘味ののった美味しい真鯛に育ちます。
福岡の天然真鯛の中でも人気のある糸島の天然真鯛は、5月上旬に解禁を迎える伝統の吾智(ごち)網漁で漁獲されます。
生態系に考慮した吾智網漁は、1~2隻の船で魚の群れを囲むように網を入れ、引き揚げて漁獲しています。
福岡県では、刺身、あら炊き、鯛茶漬けにして食べられていますが、天然真鯛の旨味や甘味を堪能できる、鯛しゃぶしゃぶがご当地の味わいとして特に人気があります。
愛媛県(1,400t)
全国漁獲量の8.8%を占める愛媛県では、今治市、伊予市、松山市が主要産地となっています。
四国の北西部に位置する愛媛県と本州広島県を結ぶ瀬戸内海には多くの島が浮かび、海流の流れが複雑になっています。
特に、潮流の激しい来島海峡周辺は日本三大急潮流のひとつで、そのような荒波に揉まれ育った真鯛は、脂のりや身の強さが違うと高く評価されています。
木島海峡での漁法の特徴は、竿を使わず、一本の釣り糸に枝針をつけた手釣りをしていることです。
一匹一匹を丁寧に扱える一本釣りで漁獲された真鯛は、魚体へのストレスが少なく、傷のない美しい高級食材として出荷されます。
真鯛は県下全域で漁獲されており、愛媛県のシンボルのひとつとして県魚に制定されています。
また、地元で古くから親しまれてきた真鯛の郷土料理も多く残されています。
例えば、「鯛めし」の種類は愛媛県内でも地方によって特徴が異なり、焼いた真鯛を昆布だしで炊き込んだ「松山鯛めし」や、卵を加えたタレに鯛の刺身を絡めてご飯にのせていただく南予地方の「宇和島鯛めし」があり、美味しい食べ比べを楽しめるようです。
天然真鯛の名産地
良質な天然真鯛が獲れる地域では、鯛に産地や特色がわかる名前をつけて、他と区別化したマーケティングをしています。
ブランド真鯛は、高級料亭やお寿司屋でもひとつ上のランクとして扱われ、その味わいもお墨付きです。
代表的な3つの名漁場と、ブランド魚となっている鳴門鯛、明石鯛、加太の真鯛を紹介しましょう。
興味深い点は、下記に挙げる3つの名産地は、漁獲量ランキング上位の県ではないところです。
漁獲量は多くないものの、絶品の味わいが希少価値の高い食材として評価されているようです。
徳島県「鳴門鯛」
鳴門鯛は、世界三大潮流と呼ばれる「鳴門の渦潮」がある鳴門海峡で育ちます。
鳴門海峡はミネラルや栄養素が豊富なため、鳴門鯛の脂からは上品な甘みを感じられます。
渦潮ができるほどの激しい潮流の中で育った鳴門鯛は、骨にこぶができるほどの厳しい環境で育つため、引き締まった筋肉がコリコリと心地よい歯応えをよぶ真鯛です。
なぜ骨にこぶができるのか詳しいメカニズムは不明ですが、激しい潮の流れの海域に棲む魚には時として、骨が太くなりこぶのように膨れた骨になるそうです。
また、鳴門独自の漁法として、「撒餌釣」が挙げられます。鳴門海峡周辺では、年間漁獲量の7割以上がこの一本釣りで漁獲されています。
撒餌釣とは、一本釣り漁法の一種で、イカナゴやエビといった生餌とテグス針が入ったプラスチック筒を船から下ろし、海底で底の蓋が開き中から生餌と針が海中へ放出され、生餌に誘われた真鯛を釣り上げる伝統的漁法です。
流れの速い潮流を読み、真鯛のいる場所へピンポイントに筒を落とす名人にしかこなせない技量が必要だそうです。
兵庫県「明石鯛」
明石海峡の荒波と早い潮流に揉まれ育った明石鯛は、引き締まった身質が特徴の一大ブランド鯛です。
真鯛の餌となるカニやエビ、魚が豊富に生息している海域なので、美味しい餌を食べて育った真鯛と言えます。
旬は紅葉鯛と呼ばれる秋の頃が真っ盛りで、800g以上の個体は「明石鯛」の商標タグを付けて出荷されます。
一般的な天然真鯛の3倍近くの値が付くと言われており、東京・豊洲の市場でも特定の仲卸しか扱えない「日本一」と名高い真鯛です。
加えて、獲れたばかりの真鯛を一晩暗い水槽で過ごさせることにより、興奮状態を落ち着かせストレスを取る「活け越し」を行っています。
さらに手鉤による高度な活け締めの後、高い鮮度を保つ神経抜きの技術を行っており、二重三重にと手をかけ真鯛の美味しさを最大限に引き出しています。
和歌山県「加太の真鯛」
和歌山県の北西部にある加太では、紀州と淡路島を結ぶ紀淡海峡を主な漁場としています。
友ケ島水道を中心とした加太周辺の海域は真鯛の産卵場が多く、海水温の高い紀伊水道は主要な越冬場となっています。
春になると太平洋から餌の豊富な瀬戸内へと登る産卵前の桜鯛が獲れ、秋には越冬のために瀬戸内から太平洋をくだる紅葉鯛が獲れる名漁場です。
加太の漁師は、指一本で糸を操る伝統的な一本釣り漁法で、真鯛に傷を付けないように釣り上げています。
また真鯛のストレスを軽減させるために、水揚げ後漁港の生簀で泳がせ緊張を解く「活込み」を行っており、活魚の状態で出荷されます。
加太の真鯛は、紀伊水道の荒波に揉まれ身の引き締まった極上の味わいをしており、その品質や鮮度にこだわりをみせています。
養殖真鯛の歴史とブランド
1年を通して需要の高い真鯛は、いつしか漁獲量と需要量が見合わなくなり、それをカバーするべく真鯛の養殖は始まりました。現在、養殖真鯛は真鯛市場の8割を占めています。
生産量が安定している養殖真鯛は、価格も安定しており、おかげで一年中おいしい鯛を味わうことができます。
日本における海水魚類の養殖研究は、1928年に始まった真鯛の飼育研究が最も古いと言われています。
今日、日常的に食卓に並ぶようになった養殖真鯛の歴史を遡りながら、各地で特色をもたせたご当地ならではの「味のオリジナリティ」を追求した、養殖真鯛の代表的ブランドも紹介していきます。
真鯛養殖の開拓史
人類の養殖の始まりは、稚魚を確保し囲った生簀で育てる「畜養」と言われています。真鯛の養殖研究も畜養を経て、国の事業として明治時代(1868年~1912年)中頃からスタートしました。
当時、大型や中型の真鯛は高値で取引されていました。一方でカスゴと呼ばれる幼い鯛は、タダ同然の価値しかありませんでした。
採卵用の親鯛の確保は非常に難しいことでしたが、鯛の稚魚は手に入りやすかったからです。
鯛は本来、沿岸の水深20~200mの深場に生息し、季節ごとに生息場所を移動しています。
しかし、稚魚の間は浅瀬で餌を食べながら育つため、網を引けばいくらでもカスゴが網に入っていました。
育て上げれば価値のある高級魚として扱われる真鯛の養殖事業は、水産に携わる人々の長年の夢のひとつでした。
真鯛が好む温暖な海域をもつ西日本では、養殖に向けての試験場を設けやすかったこともあり、鯛の養殖に力が入ります。
明治21年(1888年)になり、岡山県で海洋学者及び水産学者の北原多作氏が、真鯛の人工孵化の試験を開始し、明治23年には広島県尾道へ鯛孵化場が設けられました。
大正14年(1925年)には、広島県大長に国立養魚試験池と孵化場が設けられ、この地で1928年に水産学者の梶山英二と西岡丑三が、海上に浮かべた木箱内で、卵から孵化した真鯛の仔魚を全長14~19ミリの稚魚へと育て上げることに成功しました。
これが真鯛の人工孵化から稚魚へ育て上げた最初の成功例と言われています。
やっとの思いで成功させた研究でしたが、第二次世界大戦で一時中断となります。
1950年代に再開されると、様々な技術開発が行われ、1960年代を過ぎて陸上水槽での稚魚の飼育に急速な発展をみせます。
1965年、瀬戸内海栽培漁業協会の伯方島事業場は、ワムシ(正式名:シオミズツボワムシ)というプランクトンを孵化した真鯛の仔魚へ大量に与え、全長3~4㎝の真鯛の稚魚を500尾ほど育て上げるという快挙を成し遂げたのです。
孵化したばかりの小さな仔魚へ、何を与えて育てていくか、その初期餌料を探すことが養殖業のキーポイントでした。
現在でも真鯛をはじめ、大部分の海産魚の初期餌料には、ワムシを与えることが定番化しており、この発見の偉大な功績を感じずにはいられません。
このワムシを安定して確保する方法は、三重大学の伊藤隆氏が確立させました。
汽水の溜池などに生息する微小な動物プランクトンのワムシに、単細胞の植物プランクトンを餌に与えて、大量に増殖させられることをつきとめたのです。
こうして孵化させた真鯛の仔魚を、安定して育て上げる方法が発見されたことにより、昭和40年(1965年)日本初の真鯛の種苗(養殖用の稚魚)生産が確立されます。
真鯛の養殖は1970年に入り、養成する親鯛から人工孵化させた人工種苗の利用が始まり、1990年代には貴重な天然資源に頼らない人工種苗による養殖が開始されるようになりました。
養殖真鯛の生産効率が向上したことで、一気に真鯛養殖事業は成長し、全国に広がっていったのです。
養殖真鯛の生産量ランキング
天然真鯛の漁獲量上位の地域と同様に、真鯛の養殖業も温暖な地域で行われています。
養殖真鯛の一大産地は圧倒的に四国の愛媛県で、全国シェア率は56.7%となっています。
ちなみに、同じ四国でも、徳島県では真鯛の養殖業は行われていません。
2019年の全国の養殖真鯛生産量62,301tのうち、収穫量上位トップ3を比較して見てみましょう。
愛媛県(35,350t)
全国収穫量の56.7%のシェアを誇る愛媛県が抜きん出て1位となっています。
1990年から常に1位を独占している愛媛県は、2006年以降継続して全国収穫量の半数以上を占めており、養殖真鯛の中心地と言えます。
主要産地は宇和島市、愛南町、西予市で、ミネラルや栄養が豊富な美しい宇和海で養殖されています。
養殖の産卵魚から稚魚、成魚へ成長させる完全養殖のサイクルで、生産者ごとに高品質な真鯛の生産方法に独自の工夫がされ、こだわりの美味しいオリジナル真鯛が生産されています。
熊本県(8,338t)
九州の熊本県は昭和41年から真鯛の養成試験に着手しており、現在全国収穫量の13.4%を占めて2位です。
主要産地は天草市で、有明海、八代海、天草灘で養殖されています。
海上小割式生簀方法で育った30~70㎝の大きさの真鯛は、1年を通じて脂の乗り具合が一定しており、その品質の良さに定評があります。
また、顧客の要望に合わせた色上げや身質の仕上げに対応しており、指名買いの多いことが熊本養殖の特徴のひとつとなっています。
高知県(6,334t)
愛媛県と隣接している四国の高知県は、全国収穫量の10.2%を占めて3位です。
主要産地は、宿毛市と大月町にまたがる宿毛湾や、須崎市の野見湾や浦ノ内湾での養殖が盛んです。
穏やかで水深の深い宿毛湾には一年中黒潮が流れ込み、透明度が高く、新鮮な海水は水温が安定しています。また、山からの栄養塩が流れ込むため栄養豊かな環境となっています。
環境に配慮した養殖環境のもと、旬の時期を気にせず、質の高い美味しい真鯛を通年提供することができています。
高知県ではトレーサビリティーシステムを導入し、養殖の安全性を進展しています。
各地の養殖真鯛のブランド
真鯛の養殖業が盛んな西日本を中心に、ご当地ならではの工夫をしながら育て上げた養殖真鯛が各地から出荷されています。
他との差別化を図るため、餌に地場の名産品を加えたり、育てる環境に配慮したりと、それぞれ試行錯誤の末に確立させた養殖真鯛のブランドです。
代表的なものを一部紹介します。
愛媛県八幡浜市「伊予柑真鯛」
愛媛県の名産品である伊予柑を鯛の餌に配合し、ほのかに爽やかな柑橘の香りが感じられる「伊予柑真鯛」を生み出しました。
伊予柑果皮の力で高い抗酸化力をもち、血合い筋の少ない美しい身は、食べて美味しく健康的な真鯛です。
愛媛県宇和島市「鯛一郎クン」
鯛一郎クンは、臭みのない驚きの旨味をもち、モチモチとした歯ごたえのある食感が人気の養殖ブランドです。
美味しさへの追及はもちろんのこと、鯛の食性や海洋汚染の防止にも配慮した、ノンケミカルのオリジナル配合の餌が与えられ、その品質は別格と称賛されています。
また、天然海老と天然酵母であるファフィア酵母、パラコッカス菌、マリーゴールドの花から抽出した天然色素が配合され、黒ずみのない綺麗な体色が自慢です。
生育環境面では、魚の健康チェックをしながら手作業で餌をあげ、毎日「おはよう」「ありがとう」と言葉をかけて愛情深く育てられています。
三重県南伊勢町「伊勢真鯛」
紀伊山地と黒潮の栄養豊富な流れに恵まれた海域で育つ養殖真鯛です。
餌にポリフェノール類を多く含む、三重県特産の海藻、柑橘類、伊勢茶をブレンドし、鮮度もちのよい、鯛本来の旨味が味わえる真鯛に育て上げました。
ポリフェノールの抗酸化作用により、養殖特有の脂分を抑えた爽やかできめの細かいさっぱりとした真鯛となっています。
環境に優しい養殖方法で、一般社団法人「日本食育者協会」が発足した養殖エコラベル(AEL)を取得しています。
熊本県天草市「みやび鯛」
みやび鯛は、坂田水産が飼料メーカーと10数年の歳月をかけて共同開発したオリジナルの飼料を与え育てた、安心安全なこだわりをみせる九州認知度№1の真鯛です。
天草では、みやび鯛のストレスを抑えるために、生簀に入れる鯛の数を減らし、のびのびと泳ぎ回りながら育てることで、筋肉のついた美味しい鯛となります。
安全性の高い環境でそだったみやび鯛は、旨味と甘味成分、アミノ酸含有量が天然鯛のおよそ3倍というデータをもち、現在、アメリカへの真鯛の総輸出量の7割がこのみやび鯛となっています。
和食がユネスコの無形文化遺産として世界に認められたことを背景に、美しい桜色のみやび鯛は海外での認知度が高く、2019年にアメリカにおいても「みやび鯛」は商標登録されました。
天然真鯛と養殖真鯛、それぞれの特徴
ここまで天然真鯛と養殖真鯛に触れてきましたが、味や見た目など、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。
一般的に、天然真鯛は体色が鮮やかで、ヒレなどがピンと鋭く凛々しい姿形で、上品な脂をもつと言われています。
養殖真鯛は、長年培ってきた養殖のノウハウを注ぎながら大切に育てられ、年間を通して安定した真鯛を供給することができます。
餌などに工夫をこらした養殖真鯛は、天然物と味わいにおいて遜色ないと評価されてきています。
真鯛の栄養に触れながら、天然真鯛と養殖真鯛の特徴をまとめ、比較してみました。
真鯛の栄養
真鯛は食べて美味しいだけでなく、栄養面から見ても身体が喜ぶ食材です。
高たんぱく低脂肪の身は、うまみ成分のイノシン酸をたっぷり含んでおり、生活習慣病に効果のあるタウリンも豊富に含まれています。
また、赤身魚より持つヒスチジンが少ないため、アレルギーを起こしにくい魚です。
鯛は捨てるところがないと言われるように、アラや煮汁からも美味しい栄養がたくさんとれ、余すことない魅力に溢れています。
真鯛に含まれる主たる栄養(七訂日本食品標準成分表より)と、それらの効能を見ていきましょう。
養殖の真鯛はオリジナルの餌で栄養調整がされているため、ここでは天然真鯛100g当たりの成分で紹介いたします。
たんぱく質(20.6g)
成人男性が1日に必要なたんぱく質量は60gです。
真鯛の身は消化しやすいタンパク質で、育ち盛りのお子さんからご年配の方まで、積極的に摂っていきたい食材です。
たんぱく質に含まれる必須アミノ酸が、全て基準値以上満たすものを「アミノ酸スコア100」と評価しますが、真鯛はアミノ酸スコア100で消化や吸収にも優れています。
たんぱく質は、筋肉や臓器、皮膚、毛髪などの体を作る構成成分と、ホルモンや抗体などの体調節機能成分に必要な栄養素です。
成長や免疫力アップには、欠かすことのできない重要な栄養素と言えます。
ビタミンB1(0.09mg)
炭水化物などの糖質をエネルギーに変換し、皮膚や粘膜、脳や神経系を正常に保つ働きがあります。
身体を動かすと疲れの元と言われている乳酸が溜まりますが、ビタミンB1は炭水化物の代謝を促す過程で乳酸を処理するため、疲労回復のビタミンと呼ばれています。
ナイアシン(6mg)
水溶性のビタミンB群の一種で、体内にある500種もの酵素の働きを助ける補酵素として働いています。
エネルギーを作り、脂質や糖質を分解する働きや、皮膚や粘膜の炎症を抑える効果もあります。
DHA・EPA(多価不飽和脂肪酸)(2.97g)
ドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)と呼ばれるn―3系脂肪酸を含有しています。
DHAは、脳の発達に欠かせない脂肪酸で、就学期のお子さんにも積極的に摂ってもらいたい脂肪酸と言えます。
さらに認知症や、動脈硬化の予防改善効果もあります。
EPAは、血液の流れをよくするため、血栓の予防や高血圧予防の効果があります。
天然真鯛と養殖真鯛の比較
大海原の恩恵を受けて育つ天然真鯛には自然な旨味があります。厳しい環境で育つたくましさが味につながる天然真鯛の希少性は年々増しています。
片や、近年は養殖真鯛の地域ブランドも確立され、こだわって育て上げたブランド真鯛は味がよく、クオリティの高さが注目されています。
養殖技術の向上により天然物に引けを取らない養殖真鯛が高く評価され、どちらが良いなどの優劣は難しいです。
販売店では、水産物品質表示基準に養殖表示の義務があるので、食品ラベルを見れば一目瞭然で天然養殖の区別ができます。
一般的に天然真鯛は旬の時期によって価格が大きく変動するのに対し、養殖真鯛は比較的安定した価格で販売されています。
魚を見慣れている方であれば、天然真鯛と養殖真鯛の育つ環境によりあらわれる、外見的特徴の違いからも見分けることが可能なようです。
魚を見慣れている方であれば、天然真鯛と養殖真鯛の育つ環境によりあらわれる、外見的特徴の違いからも見分けることが可能なようです。
天然真鯛は水深の深い海域に棲んでいるため日焼けをしておらず、体色が美しい赤色をしているのだとか。
ただし、天然物の雄の真鯛は雌より黒っぽくなりがちだったり、養殖でも日焼け防止のネットを使用していたりするので、一概に黒っぽい真鯛は養殖もの、と言いきれないところがあります。
体の部位を比較するとどうでしょうか。天然真鯛は尾ビレがピンとシャープになっていますが、養殖真鯛は生簀生活でヒレが擦れるため、尾ビレの先は丸くなっています。
見分けやすい箇所では、天然真鯛は鼻の穴が左右2つずつありますが、養殖真鯛は左右1つずつの個体が多いそうです。
養殖真鯛の鼻の穴が足りないことを「鼻中隔皮欠損症」と呼んでいますが、詳しい原因は分かっていません。
最も気になる味のは、天然真鯛は、荒波に揉まれているため、身は適度に引き締まり、歯応えのよい身質と余分な脂のない上品な白身をもっています。
デメリットとしては、産卵後の雌は痩せて味が落ちていますし、欲しい時に欲しい大きさが揃う保証がないということです。
養殖真鯛は、しっかりと管理された餌をもらって育つため味のバランスがよく、年間を通して安定した供給ができるところが一番のメリットと言えます。
品質の安全性だけでなく、環境に配慮した独自の餌を与えたり、育つ環境を工夫したりと、求められる声以上に対応した技術はさすがです。
日本の食卓を華々しくする「真鯛」
季節の行事や節目毎の祝い事を重んじる日本人にとって、晴れの日の象徴と言えるめでたい真鯛は、なくてはならない魚と言っても過言ではありません。
お食い初めや七五三、結納や、結婚式、祭事や儀式に、古くから真鯛は華をそえてきました。
四季を愛する日本人が、春の頃に獲れる真鯛に「桜鯛」、葉っぱが色づく秋の頃に獲れる真鯛に「紅葉鯛」と名付けたのも、日本を代表する魚としての意識からだったのではないでしょうか。
そして、真鯛を長く食べ続けてきたのは、縁起がよいだけでなく、その美味しさや調理のしやすさ、そして身体に嬉しい栄養を多く含んでいたからでしょう。
栄養満点なうえ捨てるところはないほど美味しく食べられ、傷みにくい真鯛は、料理の汎用性があり、とても扱いやすい食材と言えます。
天然と養殖の真鯛ともに言えることは、単なる「真鯛」に留まらず、各地の特色をうたったブランド真鯛が一世を風靡していることです。
とくに養殖真鯛は、いかに美味しく特徴のある真鯛を育て上げるかに情熱を燃やしており、各養殖業者が切磋琢磨して、真鯛の美味しさを追及しています。
今や市場の8割を占める養殖真鯛は、外食産業をはじめ家庭の食卓においても、なくてはならない存在です。
養殖真鯛がここまで安定して生産されていなければ、私たちはきっと真鯛をなかなか口にできなくなっていたことでしょう。
養殖は、天然資源を守るためにもとても大切な役割を担っています。
天然真鯛は確固たる地位を確立しており、その姿形の美しさと、厳しい自然界を乗り越えて育った身がもつ弾力と上品な脂の旨味や甘味は、価値のある味わいでしょう。
日本人が親しみを持ち愛してきた真鯛は、天然と養殖を問わず、食卓を華やかに優しい気持ちを運んでくれる美味しい存在に変わりありません。
[2024-02-16作成/2024-10-11更新]
(c)ふるさと産直村