ふぐ刺しにまつわる小話
関東と関西では、食文化に色々な違いが見られます。
ふぐ刺しの切り方ひとつをとっても、地域性の表れがあり面白いものです。
日本一ふぐを食する都市、大阪から生まれたふぐの異名についても触れてみましょう。
ふぐ料理の花形、ふぐ刺しにまつわる小話を紹介します。
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白身魚の極み「ふぐ」の味覚をダイレクトに味わえる料理をお探しでしたら、ふぐ刺しをおすすめします。
実は、獲れたて新鮮なふぐは、あまり美味しくありません。
一般的に刺身とは、活きのよいさばきたてを頂くのが常ですが、天然ふぐの身は2晩寝かせたくらいが美味しさの増すおもしろい食材です。
ふぐの身は筋肉質で弾力があるため、ふぐ刺しの一切れは非常に薄く仕上げられています。
ふぐは心地良い歯ごたえを楽しむのが特徴で、噛むほどに甘い旨味を味わえる美味しい魚です。
薄く切ったふぐの身を美しく盛り付けたふぐ刺しはまさに芸術品のように華やかで、特別な席の料理として喜ばれています。
人々を魅了するふぐ刺しは、刺身の常識をくつがえす熟成肉であることは、あまり知られていないでしょう。
今回はふぐという魚の特徴と、刺身にまつわる小話をまとめました。
ふぐ刺しの美味しさとは、そのひみつを紐解いてみます。
~ 目次<contents> ~
関東と関西では、食文化に色々な違いが見られます。
ふぐ刺しの切り方ひとつをとっても、地域性の表れがあり面白いものです。
日本一ふぐを食する都市、大阪から生まれたふぐの異名についても触れてみましょう。
ふぐ料理の花形、ふぐ刺しにまつわる小話を紹介します。
皆さんは「てっさ」という言葉を、聞いたことがあるでしょうか。
てっさとはふぐ刺しを指す異称で、日本一ふぐを消費する大阪を中心に使われています。
ふぐ刺しをてっさと呼ぶ、その語源は何でしょうか。
それはふぐ食の長い歴史の中で、ふぐ禁食の時代があったために生まれた隠語でした。
安土桃山時代(1575年~1603年)、豊臣秀吉が朝鮮出兵の際に前線基地を北九州に築きます。そこで将兵たちは地元で漁れたふぐを食べ、毒にあたってたくさんの死者を出してしまいます。
その事が引き金となり、秀吉はふぐ食禁止令の御触れを出しました。大事な命が、殿のお役に立つ前に失われるのを防ぐためです。
時代は流れ、その後もしばらく厳しい禁止令は武士に対して続行されます。
禁止令は明治(1868年~1912年)に入り初代総理大臣である伊藤博文により、やっと解禁されました。
しかし当初は、山口県だけに限られたふぐ食の解放だったといいます。
全国的に許しが出たのは、太平洋戦争が終わってからのことですから、まだ最近の話ですね。
実は秘かに、庶民の間でふぐは食べ続けられていました。
食の探求に熱心な大阪の人々は、美味しいふぐを食べずにはいられませんでした。
禁制のふぐを隠語で呼び、流通させていたのです。
ふぐは「たまに(まれに)当たると(中毒になると)死ぬ」=「弾に当たると死ぬ」という銃に掛けて、「てっぽう」の異名で呼ばれたようです。
それで大阪の人はふぐの刺身を「てっぽうの刺身(てっさ)」と呼ぶようになっていきました。
このような隠語が生まれるほど、ふぐの毒と死を身近に感じながらも、その美味しさは人々を魅了し続けてきたのです。
ふぐ刺しを引く時は、専門のふぐ引き包丁を使用します。
関東と関西では、そのふく引き包丁の形態が異なっており、それはふぐ刺し料理の大きな特徴として表れています。
半透明をした生のふぐ身は大変弾力のある身質のため、刺身を厚く切ると口の中で噛み砕くことができません。
それでも、関西では薄く切るのはしみったれとして、少し厚めの刺身に切ります。
せっかく味わい深いふぐ刺しを食べるのだから、口いっぱいにしっかりとふぐの旨味を堪能したいという、ふぐをこよなく愛する関西圏ならではの発想です。
一方関東では、ふぐをできるだけ薄く切ります。
江戸っ子は、物事が洗練されていることを「粋」として大切にしていました。
その心は、ふぐの身が透けるほど薄く削ぎ切られたふぐ刺しの1切れに可憐な上品さを感じ、愛でているのです。
このように同じ日本でありながら関東と関西では食文化の違いがはっきりと分かれていて、大変興味深く感じます。
ふぐのプリッとした食感と旨味をシンプルに味わえるふぐの花形料理、ふぐ刺し。
弾力ある身の魅惑的な食感と、噛めば噛むほど口に広がる上品な旨味は人々を虜にしてやみません。
なぜふぐ刺しは、皿の美しい絵柄が透けて見えるほど薄く切られるのでしょうか。
それはふぐという魚の身質に答えがあります。
低脂肪で繊維が強いふぐの身を最も活かした薄さだからです。
必ずしも、釣り上げてすぐの新鮮さが、美味しさに繋がるとは限りません。
筋肉質な固い身質が、人を魅了する食材になるまでの美味しさの科学をお教えしましょう。
また、ふぐという魚の特徴をみると共に、赤身と白身の魚について掘り下げていきます。
ちょっと意識して刺身の盛り合わせを見てみると、魚の種類によって様々な切り方がされていることに気がつきます。
これは、それぞれの魚の特徴を活かし、美味しく食べやすいようにと配慮されているからです。
平造り、引き造り、薄造りなどが代表的ですが、薄造りと同じ意味をもつ切り方に「ふぐ造り」があります。
ふぐ刺しといえば、薄く切るという形が常識として定着しているからでしょう。
ふぐ刺しを皿の柄が透けて見えるほど薄く切る理由は、ふぐの身質にあります。
ふぐは高たんぱく質、低脂肪な魚で、分かりやすくいうと全身ムキムキの筋肉質な体をしています。
そのためふぐ刺しをマグロと同様に分厚い1切れにすると、人間の歯では咀嚼することができないほど固く、口の中で泳いで困ってしまうでしょう。
ふぐはよく噛むことで、じんわりと沸きでる旨味を楽しむ魚です。
噛めなければふぐのもつ甘味を感じることができないので、厚く切る意味はありません。
ほどよい薄さに切り、ふぐの美味しさを1番よく味わえるように絶妙な調整がしてあるのです。
ふぐの刺身の食べ方は、2~3枚をまとめて口に運ぶのが最適ではないでしょうか。
高級で美味しいふぐを堪能するのだから、贅沢な厚さに切られたふぐ刺しを豪快に味わいたいと思う方もいらっしゃるでしょう。
しかし薄く切られたふぐ刺しこそ、食べる側に心配りされた贅沢な一品になっているのです。
一括りに魚といっても、赤身と白身が保有している旨味成分は、同じではありません。
赤身魚と白身魚を比較すると、特徴にどのような差があるでしょうか。
マグロとふぐを比較して、美味しさのひみつを探ってみましょう。
赤身魚の代表格に、鮮やかな赤い色をしたマグロが挙げられます。
刺身や寿司のネタで高い人気を誇っているマグロは、肉や血に鉄分を多く含んでいるため、身が赤く見えます。
赤身の大型の魚には回遊魚が多く、常に泳ぐその身体には、持続力をもつ筋肉が付いています。
泳ぎ続けるエネルギーを使うには、体内に沢山の酸素を取り込む必要があります。
その酸素の運搬役をしているのが血液色素たんぱく質「ヘモグロビン」と、筋肉色素たんぱく質「ミオグロビン」です。
この二つのたんぱく質の含有量が多い魚の身は赤くなり、少ないと白くなるのです。
赤身の魚は脂分が多く、その脂は口の中で溶け、まろやかな口当たりと甘味を味わえます。
赤身魚の旨味主成分は、イノシン酸です。
赤身の魚の刺身は、イノシン酸の強い旨味と、脂分によるまろやかな口当たりが美味しさのひみつなのです。
イノシン酸といえば、だし食材の代表である鰹節に多く含まれています。
鰹節は、赤身魚であるかつおが原料となっており、イノシン酸による濃い旨味成分をもっているのです。
余談ですが、鮭や鱒の仲間は赤身の魚に分類されません。
確かに肉は赤く見えますが、カロテノイドの1種であるアスタキサンチンによるもので、鉄分ではありません。
捕食しているエビやカニなどの餌に由来しているといわれています。
白身の魚のふぐは、主に沿岸など一定のエリアで生息しています。
長距離移動することがなく、体内に大量の酸素を蓄える必要がありません。
また身を守るには、外敵から逃げる際のすばやい動きが必要となり、瞬発的に大きな力を出す筋肉が付いています。
そのため余分な脂肪がなく、全身筋肉質で引き締まった体をしています。
白身魚の美味しさのひみつは、低脂肪であり高たんぱくな身質にあります。
たんぱく質には旨味成分の主体である、アミノ酸由来のグルタミン酸が多く含まれています。
一般的に白身の魚は弾力が強い身質のため、活け締めした後、すぐには食べません。
魚を捌いて少し熟成の時間を置き、硬くなったたんぱく質が分解されてアミノ酸が増加し、肉質が軟らかくなるのを待つのです。
また旨味成分の一つであるイノシン酸は、魚の活動が停止してから増加していきます。
そのためイノシン酸の増加と、身の弾力加減をバランスよく見極めることが重要になってきます。
白身の魚の中でも、とくにふぐはグルタミン酸とイノシン酸を多く合わせもつことが分かっています。
素材そのものにダブルの旨味を含んでいるのですから、噛めば噛むほど深い旨味が口いっぱいに広がるのです。
よい食材の美味しさを活かすも殺すも、料理人の腕と名脇役たちの相性にかかっています。
食材の状態を見極め、持ち味を引き出す道具や薬味を選ぶことは、実に神経の注がれるところです。
ふぐは甘く魅惑的な肉質をもつ反面、強い毒をもつ魚でもありますから、その扱いにはふぐ調理の免許が必須となります。
ふぐ料理人は、客人がふぐの旨味を最大限に堪能できるよう、ふぐ刺しの1切れずつを丁寧に仕上げていきます。
またふぐがもつ甘味と弾力ある身質を美味しく味わうためには、その美味しさを引き立てる調味料の力も重要です。
ふぐ刺しをさらに美味しく進化させる、料理人の技と名脇役たちを紹介します。
ふぐは強い毒をもつ魚です。
ふぐはまず、有毒部位を取り除くため捌かなければ消費者へお届けできません。
これは他の魚にはない工程であり、専門のふぐ調理師免許をもった人が行うよう条例で定められています。
この工程を、業界では「身欠き」と呼びます。
ふぐ調理師は、ふぐの加工技術だけでなく、さばいたふぐの肉質の良し悪しを選別する目ももたなければなりません。
ふぐは肉質によって価格の差が大きくでるため、食材を見極める眼力も大変重要となります。
ひとつの目安として、ふぐの身に透明感があり、絹のような光沢があるものを上質としています。
ふぐが高級魚として有名な理由には、資源減少による不安定な供給事情もありますが、最大の理由がこの独特な加工にかかる人件費にあります。
ふぐは基本的に身欠きの状態で流通され、生け簀などで生きたふぐを放す場合以外は、姿のまま流通されることは滅多にありません。
通常の魚と違いこの身欠きの処理があるため、流通でひと手間かかり、さらにその分コストがかさむのです。
身欠きの次工程では、身の部分を切り分けて刺身用にブロック状(柵取り)にします。
しめたばかりのふぐは、身が硬いばかりで旨味は乏しく、たとえ食べても感動に欠けるでしょう。
そこで、柵取りにしたふぐは少し時間を置き、硬い筋肉が分解されて身が軟らかくなるのを待ちます。
そうすることで旨味成分であるイノシン酸の増加を促すことができる「熟成」をさせるのです。
これは魚種や個体差によって時間が異なるため、その見極めには料理人の経験に依るところが大きくなります。
熟成の時間が短いと身は硬く、イノシン酸の増加も不十分なので旨味の少ない身に仕上がってしまいます。
逆に時間が長いと、イノシン酸の増加は多いものの身が軟らかくなり過ぎてしまうため、食感のよさが失われてしまいます。
食材を活かすには、熟練した料理人の見極めがとても重要です。
一般的に魚の熟成は2~3時間といわれていますが、ふぐの場合は筋肉が多いため、養殖ふぐで1日以上、天然ふぐだと2~3日寝かすといわれています。
このように手間と時間をかけて旨味を引き出し、ようやく刺身を作る状態に辿り着くのです。
身欠きの工程で、皮すきという高い技術力を要する作業があります。
皮すき・皮引きと呼ばれるこの作業は、ふぐ皮の表面にある棘を取り除き、可食部分の皮を確保する作業です。
ふぐの種類によっては皮に毒をもつふぐもいますので、見誤らない知識も必要となります。
ふぐの中で最も高値であるトラフグは、皮に毒はなく美味しく食べられます。
ふぐは捨てる部位が多い魚のため、貴重な可食部位をいかに歩留まりよくとれるかは重要です。
皮はコラーゲンを多く含み、栄養的にも優れているため、ふぐ料理の名脇役として欠かすことができません。
ふぐの皮は三層構造になっており、それぞれ食感が違うために丁寧に3分類されていきます。
包丁を寝かせて棘と皮の間を引き剥がしていく皮すき作業は、ふぐ処理師の実技試験にもなっています。
この皮すき技術に秀でた料理人は、ふぐ業界で一目置かれる存在になるほど高い技術力が求められる技だそうです。
しかし最近では機械化が進み、ふぐ加工の省力化と効率化を考え「皮すき機」が誕生し導入されてきています。
もちろんふぐの身欠きはふぐ免許をもった料理人でしか行えませんが、可食部のみに分類された後は誰でも作業をできるようになります。難しい技術の必要な皮すきですが、機械で簡単に棘の除去ができるようになり、作業がスムーズになってきています。
ふぐ刺しをいただく時、刺身の横にはふぐの甘味を引き立てる名脇役たちが並びます。
何と合わせて食べるかは、ふぐ刺しの旨味を活かす重要なポイントとなるでしょう。
しかしふぐ刺しを支えるのは、薬味だけではありません。
次に、ふぐ刺しの美味しさを味わうまでの名脇役たちを紹介します。
ふぐの身は繊維が多く、しっかりとした肉質です。
そのため、極限まで薄く切り分ける料理人の腕とふぐ専用の包丁が必要になります。
その包丁は、「ふぐ引き包丁」と呼ばれるふぐ刺専用の和包丁です。
ふぐ引き包丁は全鋼(すべて鋼を使用)の物と、合わせ(鋼と軟鉄を使用)の2種類があり、それぞれ長所と短所を併せ持ちます。
全鋼のふぐ引き包丁は切れ味がよく、薄く刺身を切るのに最適です。
しかし包丁が硬いと刃が欠けやすく、落としただけで刃が割れる可能性があるので扱いには最新の注意が必要な上、非常に高価なので簡単には手が出せません。
合わせのふぐ引き包丁は刃の部分が鋼で、背の部分は軟鉄を使用しています。
異なる硬さの金属を合わせることにより、刀身に適度なしなやかさが生まれ、刃が欠けにくく扱いやすいのが特徴です。
しかし違う金属を合わせているため、互いに引っ張り合いが生じ、使っていくうちに包丁が反り返ってくることがあります。
ですが全鋼に比べ安価なので、一般的なふぐ引き包丁として使用されています。
材質の差とは別に、ふぐ引き包丁は、食文化の違いから関東仕様と関西仕様とに分かれています。
関東はとにかく薄く刺身を仕上げるので、包丁の刀身も薄く、切れ味を重要視して作られています。
一方関西はふぐ刺しを少し厚く切るため、包丁の幅が関東より広く、刀身も厚めに作られています。
長い刃の使い方は、根元から先端まで全部を使い、ふぐの身を包丁で引くように切ります。
指先の神経を研ぎ澄ませ、刃に指を当てて刺身の厚みを調節して引きます。
そのため、ふぐ刺しを造る所作を「切る」ではなく「引く」と表現するのです。
ふぐの刺身といえば、ほぅっ、とため息が出るほど芸術的に盛り付けられた美しさで有名です。
薄く切っているため、器である皿の模様が透けて見え、そのグラデーションが大変美しいです。
一般的には丸い皿へ貼りつけるように、外側から少しずつ重ねていくベタ盛りが主流です。
均一に盛り付ける丁寧さと手際のよさ、切り身の美しさなど多くの技術が必要とされます。
これだけでも十分に綺麗なのですが、店によって趣向を凝らす飾り付けがあります。
切り身は薄く小さい花びらのような形をしているため、花のように盛り付ける「菊盛り」や「牡丹盛り」という演出もされます。
牡丹盛りでは、やや厚めの刺身の間にもう一度切り目を入れて、そこから開くような要領で一枚に広げる「二枚引き」という技を使います。
お祝いの席では、縁起物として羽ばたく鶴をイメージした「鶴盛り」や、花の周りを蝶々が飛んでいる「胡蝶盛り」という盛り付けで、会食に華やかさが足され喜ばれています。
それらの飾り盛りは見るだけで心が躍り、和食の魅力の一つである目で楽しむという観点からも、素晴らしい演出だといえます。
刺身に造られたふぐの身は、グルタミン酸とイノシン酸がもつ旨味の相乗効果で十分美味しいのですが、ふぐの美味しさをさらに引き出すために薬味の力は不可欠です。
たいてい刺身は、濃厚なコクのある醤油をつけて食すのが一般的です。
ですが、ふぐの繊細な旨味は醤油の塩分や香りに負けてしまうため、まろやかなポン酢との相性がよいといわれています。
また刺身の薬味として一般的なわさびは、マグロなど魚の脂がもつ甘味を引き出し、口の中をさっぱりとさせてくれる役割があります。
一方ふぐは超低脂肪で、口の中でじっくり旨味を味わう刺身であるため、わさびはむしろ刺激が強すぎてふぐの味を活かすことができません。
そこで味のアクセントには、もみじおろしや葱を使います。
もみじおろしとは、大根に唐辛子を差し込みすりおろしたものです。
唐辛子と大根のシンプルでじんわりとくる辛味がアクセントとなり、ふぐ刺しの上品な旨味を広げるように引き立ててくれます。
また大根おろしの水分が、ポン酢と辛味をマイルドにします。
大切な薬味のひとつである葱は、魚独自の生臭さを払拭し、優しい辛味と爽やかな香りがふぐの旨味を際立てているのです。
魚を解体し、生の身を小切りにした状態で提供される刺身は、一見単純そうな料理に見えますが実は細やかな仕事が成された料理でした。
適切な環境で寝かせたふぐの身は、たんぱく質が分解され軟らかくなっていきます。そして旨味成分であるイノシン酸は時間と共に上昇することが分かりました。
ふぐの身質は高たんぱく質、低脂肪で、しめた直後は身が固くまだ旨味も完成されていないため、この熟成時間が美味しさを高める秘訣となります。
ふぐは頻繁に食べる料理ではないだけに、たまたま悪い環境で食してしまった際のマイナスの評価を耳にすることもあります。
残念ながら、ふぐの調理は料理人の目利きや技術によって味に差がでてしまいます。
せっかくの熟成ですが、時間を置きすぎると旨味は上昇するものの、ふぐ刺しの命ともいえる食感が物足りなく、総体的な美味しさが半減してしまう難しい食材なのです。
熟成の時間が短いふぐ刺しは、不快な口当たりで旨味も引き出せず、せっかくのふぐを美味しいと感じることができないでしょう。
ふぐ食には古い歴史があり、毒の解明がされないままでもその味は愛され、求め続けられてきました。
ふぐ本来の味は、最高の状態に仕上がった刺身を食べて初めてダイレクトに感じ取れるのではないでしょうか。
そのような薄造りは、ふぐ引き包丁の長い刃渡りをフルに使い、刃に添えた指先の感触をたよりに薄く引いて造られます。
包丁を握る手先の感覚が鈍らないよう細心の注意を払い、調理の前は重い物を持たないようにするなど、料理人の隠れた心配りも嬉しい隠し味です。
ふぐが高値になるのは、他の魚にはない工程がいくつかあり、ふぐ処理には限られた資格保有者が必要という面からも、納得いただけた事でしょう。
このように多くの手が加わったふぐ刺しは、薬味とポン酢の的確なサポートを得て、ふぐそのものの美味しさを堪能できる逸品へと仕上がっていくのです。
ふぐ刺しを食す際には、ゆっくりと口の中で絶妙なハーモニーを感じながら味わってください。
きっとふぐに秘められた、奥深い味わいに魅了されることでしょう。
そしてこれからも、多くの人が旨味溢れるふぐ刺しを求め続けていくのです。
[2017-9-19作成/2024-10-11更新]
(c)ふるさと産直村
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